大人のアスペルガーのコミュニケーショントラブル、対処法はある?

アスペルガー症候群は、アメリカ精神医学会の最新の診断基準では「自閉症スペクトラム」という概念の中に入れられることになった発達障害の一種ですが、日本ではまだまだ「アスペルガー症候群」と言った方が認識されやすいです。

アスペルガー症候群が問題になるのは、主に対人関係におけるコミュニケーショントラブルで、日本で広まったのもこのトラブルがあるためと言えます。こうした困りごとに、対処法はあるのでしょうか?

アスペルガーの大人が抱えやすいコミュニケーションの困りごとは?

アスペルガー症候群(自閉症スペクトラム)は発達障害の一種で、一般的に知能面の遅れはないのですが、主に「コミュニケーション能力の障害による社会性の低さ」「独自のこだわりによる社会適応の難しさ」などが困りごととして挙げられます。中でもコミュニケーション能力にまつわる問題として考えられるのが、以下のような点です。

  • 人間関係において、適度な心理的距離をはかれない
  • 場の空気や、相手の感情を察知できない
  • 曖昧なニュアンスが理解できない
  • 想像力に欠けるため、相手の心情を思いやれない
  • 客観的な視点で自分や周囲を捉えられない

「自分がこう言ったら相手はどう思うだろうか」「この場面ではこう言ってはいけないから、黙っておこう」といった想像ができず、多くの定型発達者とのコミュニケーションにずれが生じてしまうのです。そのため対人関係がうまくいかず、学校や職場で孤立してしまいます。

さらに、なぜずれてしまうのかを理解することができないため、社会性を学ぶ機会がありません。そのため、いわゆる「常識的」なふるまいを身につけられないのです。

こうした症状は、生まれつきの脳機能に何らかの障害があるために生じていると考えられ、大人になってからある日突然発達障がいになる、ということはありません

しかし、症状が軽度の人では、知能の発達に問題がないことから、学生の頃は「個性」「ちょっと変わった子」で見過ごされてしまい、社会人になってから対人関係やビジネスにおいて「暗黙の了解」「建前」といった場面でつまずいて初めて気づく、といった人が多いのです。

例えば、重度の発達障害の場合「人に関心を示さない」「呼びかけても反応しない」「目を合わせない」「一方的に喋り続けるので、会話が成り立たない」「同じ言葉を繰り返す」「言語能力に遅れがある」など、明らかに定型発達と異なった症状が現れるため、周囲もなにかの病気であると気づきやすく、幼稚園や小学校などの早い時期から特性に配慮してもらいやすいのです。

しかし、軽度の発達障害の場合「話すときに相手と距離が近すぎる」「人と接するときに目が泳ぐ、視線が不自然になる」「表情が場の雰囲気に合わない」「アイコンタクトが通じない」「言葉の裏の意味がわからない」など、変わっているなとは思われても、病気とまでは気づかれにくい症状が多いのです。軽度の場合、言語能力や理解力は正常なため、「言葉がわかっているのに、なぜアイコンタクトはわからないの?」といった不信感を与えてしまうこともあります。

さらに、言葉の直接的な意味そのものは理解できているものの、社交辞令や冗談・遠回しな言い方などが通用せず、軽い冗談や嫌味を真に受けてしまいます。しかも、相手の立場や感情に配慮して言葉を選ぶことも難しいので、大人になってからの対人関係にトラブルが起こりやすくなります

「空気が読めない」「気配りができない」と思われたり、逆に悪意があってわざと相手の意図を無視したり、自分勝手で横柄な態度を取っているんだ、と誤解されてしまうこともあります。しかし、本人に悪意やわがままは全く無く、むしろ性格としては優しく素直な人が多いのです。このように認識の齟齬が生じた結果、以下のような問題が発生しやすいです。

  • 職場で上司ににらまれてしまう
  • 取引先を怒らせてしまい、しかもなぜ怒らせたのかわからない
  • 雑談やちょっとした会話がうまくいかず、孤立してしまう
  • 努力はしているのに、仕事についていけない

コミュニケーションで失敗を繰り返した経験から深く傷つき、悩んでいる人も多く、結果として自尊心が非常に低くなり、「人から言われたことには何でも従ってしまう」「嫌なことや無理なこともハイハイと受け入れてしまう」となることもあり、適切な対人関係を築けないこともあります。

自分の意思で相手に気を使わないタイプの人と比べ、気を使おうとし、対人関係を築こうとしてもうまくできない発達障害の人にとって、社会に適応して生きていくのは至難の業です。すると、学生時代は成績優秀だった人でも、職場でのミスが積み重なっていき、だんだんと周囲のペースや空気についていけなくなってしまいます。

最も苦手とする建前と本音の使い分けはもちろん、臨機応変にやり方を変える、相手の言葉の裏の意図を汲み取る、言われなくても場の雰囲気を察知して自分で動く、といったことが社会では要求されます。しかも、このような暗黙のルールに教科書はありませんし、職場の人は学生時代にコミュニケーション能力が当然培われているもの、として接してきます。

対人関係や仕事上のストレスは、定型発達の人でもたびたびうつ病などの精神疾患を引き起こすほど大変なものですが、その上発達障害によるコミュニケーションの困難さが加わると、さらにつらいものになります。本人が一生懸命努力してもうまくいかず、周囲の理解も得られないとなると、精神的に追い詰められてしまい、不眠・不安障害・抑うつ状態などの二次障がいが引き起こされてしまうことも少なくありません。

コミュニケーションの困りごとは、どう解決すればいい?

では、上記のようなコミュニケーションの困りごとに対処するには、具体的にどうしたら良いのでしょうか。基本的には、自分の特性を理解し、長所をうまく活用するとともに短所をカバーしていくという考え方で対処していきます。短期的にすぐできる解決法と、長期的に行っていく根本的な解決法に分けて見ていきましょう。

今すぐにできるコミュニケーション対処法とは?

まず、アスペルガー症候群の人は、耳から入ってくる情報を処理するのは苦手ですが、視覚化された情報を処理するのは得意な傾向があります。そこで、覚えておかなくてはならないこと、仕事のルール、日時、場所、人名など、必要なことはその都度メモやノートにしっかり書き記しておきましょう

仕事の指示や決定事項は口頭で伝えられることも多いですが、必ずその場でメモを取り、聞こえなければ聞き返し、最後に読み上げて確認します。例えば、「新商品の宣伝について、決定事項を書類にまとめ、11月15日までにAさんに渡す、ということでよろしいでしょうか」などです。もちろん、字だけでなく、図やフローチャート、チェックリストなど、自分が使いやすい、わかりやすいものをどんどん使っていきましょう。

相手が気心の知れた同僚や、上司でも比較的親しい間柄の人、発達障害に関して理解を示してくれている人などであれば、仕事のポイントはメモにして渡してもらえるよう、あらかじめ頼んでおくのも良いでしょう。また、スマートフォンのメモアプリや録音アプリを活用するのも良い方法ですが、突然スマートフォンをいじり出すと失礼に当たることもありますので、「すみませんが、スマートフォンでメモをとらせてください」と一言断り、承諾を得てから使いましょう。

仕事の合間のちょっとした雑談や、プライベートでの会話の場合は、とにかくまず聞き役に徹するのが良いでしょう。場の空気を読むのが苦手な発達障害の人は、何か気の利いたことを言おうとして失敗してしまうこともあります。もちろん、失言してしまったと気づいたときは、どうして失言になってしまったのかをよく考え、同じことを繰り返さないようにする必要があるでしょう。

しかし、大人数での飲み会などでは、ニコニコしながら「そうなんだ」「へえ〜」と相づちを打っているだけでも場が持つものです。誰もかれもが喋りだす場でじっくり話を聞いてくれる聞き役の存在は、かえって重宝されることもあります。ですから、大人数のときは基本的に聞き役、と覚えておくと良いでしょう。

一方で、たまたま休憩室で二人きりになってしまったときなど、1対1の会話をする必要にかられるときもあります。そのときには全く喋らないわけにもいきませんので、以下のようなポイントを心がけながら話してみましょう。

  • 人と話すときは相手の目を見るが、じっと見続けず、ときどき目をそらす
  • 口元を少しゆるめるイメージで、笑顔で話す
  • 自分だけ一方的に話さず、相手の話もきちんと聞く
  • 仕事を断るときは「すみませんが」、飲み会などを断るときは「残念ですが」、と一言添える

アスペルガー症候群の人の中には、人と仲良くしたくてついついたくさん話してしまう、という人もいます。ですから、「自分が話したら、同じだけ相手の話を聞く」という一点を心がけるだけでもかなり変化があります。さらに、あいさつやあいづちのタイミングは他の人がやっていることをパターンとして覚え、真似してしまうのも効果的です。

コミュニケーションの困りごとに対処する、根本的な方法とは?

では、根本的な解決方法とはどんなことなのでしょうか。アスペルガー症候群をはじめ、発達障害の人に困りごとが生じる原因の1つは「脳のワーキングメモリが少ないこと」だと言われています。ワーキングメモリとは「短期記憶」とも呼ばれ、定着する長期記憶ではないものの、一時的に脳の中に置いておく記憶領域と考えられます。

例えば、定型発達の人であれば「相手の言葉」「表情」「声色」などを同時にワーキングメモリに置いて(覚えて)おき、それを受けて周囲の状況などを見ながら次の言葉を考える、ということができます。この繰り返しでスムーズな会話が行われているのですが、発達障害の人では、言葉と表情でワーキングメモリがいっぱいになってしまい、声色や周囲の状況まで覚えておくことができない、といった状態になってしまうのです。

そこで、ワーキングメモリを鍛えるトレーニングを行うと、根本的な発達障害の生きづらさの改善につながります。例えば、以下の3つのトレーニングは特別な道具や場所を必要とせずに行えますので、ぜひ試してみましょう。

2つ戻りしりとり
  • 「リンゴ→ゴリラ→ラッパ」「ゴリラ→ラッパ→パンダ」のように、2つ前の単語を言ってから新しい単語を言う、というしりとり
  • 少し前の言葉を覚えておかなくてはならないところがポイント
4桁 – 2桁の暗算
  • 3542からひたすら13を引いていくなど、暗算を行う
  • 前の数字を覚えておきながら、暗算という計算を行うところがポイント
    ※筆算しないこと、4000-20のように、あまりにも簡単な数にしないことが重要
短い文章を聞いて繰り返す
  • 誰かに文を読んでもらう、YouTubeなどで動画を流すなどして、5〜10秒後に同じ内容を繰り返す
  • 5〜10秒の間は別の作業や思考を行うことがポイント
  • ※自分で読むとそこで記憶してしまって意味がないので、読む場合は誰かに行ってもらう

また、これらの訓練に慣れてきたら、訓練をしながらお手玉や料理をする、というようにさらに別の作業を加えると、同時並行で作業をこなすという訓練になります。最初は少し難しいと感じるかもしれませんが、できるようになるにつれ、仕事やプライベートでワーキングメモリが活かせる場面も増えてくるでしょう。

発達障害には、確かに生まれつきできないことも多いのですが、「できないからやらない」と開き直ってなにもしないと、周囲の反感を買ってしまうこともあります。「苦手なので、今練習しています。すみませんが、少し待っていてください」というように伝えれば、周囲の人からの理解も評価も得やすいでしょう。

こうした訓練のほか、ストレスを上手に発散したり、メタ認知という自分を客観的に見る訓練をしたり、代謝を上げるために有酸素運動を行う、などの方法も効果的だとされています。ぜひ、できるところから生活の中に取り入れていってはいかがでしょうか。

おわりに:大人のアスペルガーのコミュニケーショントラブルには、短期と長期で対応する

発達障害の人が抱えるコミュニケーショントラブルは生まれつきのもので、本人の悪意や生育環境によるものではないにも関わらず、どうしても「空気が読めない」「気が使えない」といった齟齬が起こりがちです。

そこで、短期的には「基本的に聞き役」「自分が話したら同じだけ相手の話を聞く」などの対処法を取りながら、長期的にはワーキングメモリを鍛える訓練を行い、最終的には根本的な解決をはかると良いでしょう。

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