アスペルガー症候群は、現在では「自閉症スペクトラム」の1つとされている発達障がいの1つでです。日常生活でさまざまな困りごとが生じることがありますが、中でも「フラッシュバック」と呼ばれるトラウマの追体験を起こす傾向があります。フラッシュバックが起こりやすい理由、心や仕事への影響、対応方法などを詳しく見ていきましょう。
アスペルガー症候群がフラッシュバックを起こしやすいのはなぜ?
アスペルガー症候群の人がフラッシュバックを起こしやすい最も大きな理由として、「過去にこだわりやすい」ということが挙げられます。
アスペルガー症候群の特性として「こだわりが強い」ということがあり、これは例えば技術の習得などの面ではプラスに働くのですが、一方で、過去に強くこだわり執着してしまうことで、覚えていなくてもいいこと・忘れたほうがいいことをいつまでも忘れることができなくなりやすいです。
他の人ならすぐに忘れてしまうようなことも何十年も細部にわたって覚えていることになりますから、この記憶力が辛い体験や苦しい感情を伴う経験に対して発揮されてしまうと、いつまでもフラッシュバックとして蘇ってしまうことになりかねません。
第2の理由として、「曖昧なことへの対応や処理が苦手」という特性があります。
納得のいかないことに対して適当に折り合いをつけるということができないため、他人の反応や心情に対して「あの時、陰口を言われたのはなぜ?」「相手が嫌そうな顔をした理由は?」など、延々と考え続け、自分の中で納得がいくまで答えを追求しようとしてしまいます。
しかし、心情のほとんどは根拠がありません。
例えば、単なるストレスの解消のために陰口を言っただけで、言った方はすっかり忘れてしまっているということもあります。
こうしたことが理屈ではわかっていても、明確な答えがないと気になってしまい、フラッシュバックを繰り返すうち、自分の中で落とし所が見つからなくなってしまう人も多いようです。
最後に、「変化が苦手」という特性もフラッシュバックに影響します。変化が苦手で臨機応変な対応がしにくいと、日常生活が決まったパターンに落ち着いてしまいやすく、すると、新しい情報が入ってきにくくなります。
こうして、記憶が更新されず、過去をいつまでもフラッシュバックしてしまうというわけです。
また、そもそもアスペルガー症候群の人たちは、トラウマを抱えやすいという傾向があります。他者とのコミュニケーションに齟齬が生まれやすいため、どうしても定型発達の人と比べて辛い体験をしやすいのです。
このような特性や経験などの理由から、アスペルガー症候群の人はフラッシュバックをしやすいと言えます。
フラッシュバックが精神状態や人間関係に悪影響を及ぼす?
フラッシュバックによる困りごととしては、以下の5つが挙げられます。
- 精神的な不調の原因になりやすい
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- 辛い体験を何度もフラッシュバックすると、精神的に不調が起こる
- 辛い体験をもとに他者と接してしまい、コミュニケーションに支障を起こしやすい
- 仕事ができなくなる
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- 仕事中にフラッシュバックに襲われると、集中できなくなる
- 新しいことが覚えられない、上司や同僚の話を聞けないなど
- 上司に叱責された場合、それがさらにフラッシュバックすることも
- 周囲に誤解されやすい
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- フラッシュバックで顔をしかめたり、声を出したりすると誤解を受ける
- 仕事内容が嫌い、同僚や上司が嫌い、と誤解を受けると居づらくなる
- 周囲の理解を得にくい
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- 人に「フラッシュバックが辛い」と話しても、わかってもらえない
- フラッシュバックの内容を話すのが怖く、そもそも周囲に話せない
- 根本的な治療法はない
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- フラッシュバックや過去へのこだわりを根治する方法は存在しない
フラッシュバックは、過去の辛い体験と結びついています。そのため、何度も思い出すことで余計に辛い気分を増幅して精神的な不調を招いたり、コミュニケーションの障がいに拍車をかけたりすることがあります。
さらに、フラッシュバックの際に顔をしかめたり、声を出したりしてしまうと周囲から誤解を受け、職場に居づらくなることも考えられます。
トラウマやフラッシュバックへの対応方法は?
アスペルガー症候群の人がフラッシュバックを起こしやすい理由として、最初に「過去へのこだわり」「納得がいかない」「変化が苦手」「トラウマを抱えやすい」といったことをご紹介しました。
ですから、逆に言えば、これらをある程度解消することができれば、フラッシュバックの症状を軽減できると言えるかもしれません。
具体的には、以下のような方法で対処していくと良いでしょう。
- 過去にこだわりやすい→こだわりの対象を現在に変える
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- 過去にできた物事は変えられないが、現在と未来は変えられる
- 今うまくいかない原因を、過去に探そうとしていることもある
- 現在の生活にこだわり、未来をよりよく変えるために行動することを心がける
- 納得がいかない→考え方のクセを変える
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- 過去の辛い経験や苦しみは、現在まで続く考え方の「クセ」のせいかもしれない
- 「そもそもなぜ悩んでいるか」「過去と今回の共通点はなにか」などを考え、考え方の悪い「クセ」を見つけ、改めていく
- 変化が苦手→無理のない程度に刺激を作る
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- 新しい情報が入ってこないのが原因なら、新しく刺激を作ってやると良い
- 「1日5,000歩歩く」「簡単な日記をつける」など、新しく達成しやすい目標を立てる
- 達成感を得続けることで、過去よりも現在に目が行くようになる
- トラウマを抱えやすい→感情を出せるようにする
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- 感情を出せていないため、トラウマになってしまうケースも多い
- ただし、嫌な記憶を作った相手に感情をぶつけるのではなく、紙に書いたり、愚痴を聞いてくれる人に話したりする
- 感情を少しずつ出していけば、ストレスが解消され、フラッシュバックの頻度が下がっていく
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また、そもそも生活全般のストレス度合いが高いと、フラッシュバックが起きやすいと言えます。
ですから、生活しやすい環境を整えたり、居心地の良い人間関係に絞ったりする工夫はとても大切です。フラッシュバックを含めて、困りごとが起こったときにどう対処するかのマニュアルを自分で作っておくことも、アスペルガー症候群の人にとっては不安を1つ失くすことにつながります。
フラッシュバックが起こる原因が金切り声や破壊音などとはっきりしているときは、その原因と距離を置くことも重要です。
また、暇なときやぼんやりしているときに起こりやすいなら、楽しめる目標を複数用意しておくと良いでしょう。
フラッシュバックが起こったら、すぐに現在のことに意識を向けられるよう「これから○○をしよう」「今、何をしていた?」などと自分に問いかけたり、時間が許すなら睡眠を挟んだりするのも1つの方法です。
おわりに:アスペルガー症候群のフラッシュバックには「現在」への対処がカギ
アスペルガー症候群の人は、過去にこだわりやすく曖昧な処理や変化が苦手な特性から、フラッシュバックを引き起こしやすいと言えます。しかし、逆に言えばフラッシュバックは全て「過去」のことですから、「現在」をカギに対処を行うことができます。
過去は変えられませんが、現在の考え方を変えたり、刺激を作ったり、感情を出したりしていくことはできます。自分のやりやすい方法で、フラッシュバックを軽減していきましょう。
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