発達障がいとは、コミュニケーションや対人関係をはじめ、社会生活に関わるスキルに何らかの症状があって社会生活に支障をきたす状態のことを言います。このことから、発達障がいの人は社会生活が苦手で引きこもりやすいと考えられています。
発達障がいの人は本当に引きこもりになりやすいのでしょうか?また、引きこもりになってしまうのはなぜなのでしょうか?発達障がいからの引きこもりについて、原因と解決策をご紹介します。
発達障がいの人はなぜ引きこもりやすいの?生きづらさとの関係は?
発達障がいとは、ADHD(注意欠陥多動性障害)・LD(学習障害)・境界知能・高機能自閉症など、身体面・学習面・言語面・行動面などに一連の症状が現れた状態で、通常はこの症状が生涯にわたって続きます。
一方、引きこもりとは、厚生労働省によると「仕事や学校に行かず、かつ、家族以外の人との交流をほとんどせずに、6ヶ月以上続けて自宅に引きこもっている状態」と定義されています。また、一歩も部屋から出ないというわけではなく、買い物などで外出することがある場合でも引きこもりに含めるとされています。
発達障がいの人は、その特性上、一定の生きづらさを抱えています。そのため、日常生活の中で大きな負担とストレスを抱えこみやすく、結果として引きこもりになりやすいと考えられています。
例えば、福島学院大学の調査によると、引きこもり状態にある患者さん150人のうち、80%以上が小児期からの間に何らかの発達障がいを発症していたことがわかりました。また、山梨県立精神保健福祉センターの調査によれば、引きこもり相談で訪れた152人のうち、27%の42人が発達障がいと診断されたとのことです。これらのことから、引きこもりと発達障害の間にはある程度の関係があると考えられます。
一方、引きこもりの第一の原因がそのほかの精神疾患であることは考えにくいとされています。
引きこもりの外来を長く見てきた専門家によれば、引きこもりの患者さんたちは対人恐怖症(社会不安障害)・強迫性障害(強迫観念や強迫行為)・抑うつ状態などを発症していることが多いとのことですが、これらの精神疾患が認められた人のうち、約半数弱が何らかの発達障がいと診断されました。
つまり、これらの精神疾患は発達障がいの二次障がいとして精神疾患が現れたものであり、精神疾患そのものが引きこもりの原因ではないと考えられるのです。
普通の感覚のずれや環境への適応、感覚過敏などが影響を及ぼす
具体的になぜ発達障がいの人が引きこもりになりやすいかについては、以下の3つの理由があると考えられています。
- 一般的な「普通」と本人の思う「普通」がずれている
-
- いわゆる「常識的な考え方」がわからない、ずれている
- 「適当に」「普通に」と言われても理解できず、意思の疎通が困難
- ADHDの不注意優勢型の場合、それほど難しくない作業で不注意によるミスを繰り返してしまう
- 職場・学校になじめない
-
- 知的能力には問題がなくても、能力に大きなばらつきがあるため、特定の作業ができない
- 皆と同じことができず、いじめを受けたり教師から何度も叱られたりする
- 学校に適応できないと不登校に、仕事に適応できないと転職を繰り返し、ストレスが膨れ上がる
- 感覚過敏によるつらさが大きい
-
- 触覚・視覚・聴覚などが過敏で、普通の人では気にならない光や音に耐えられない
- 単なる晴れの日や明るめのライト、雑踏などがつらいことも
- 感覚過敏をきっかけに、外に出られなくなってしまうこともある
発達障がいの人は、いわゆる「普通」や「常識」とされるものと、本人の感じ方・考え方が異なる場合が多いです。そのため、「適当にやる」「普通にやる」ということがわからず、こうした指示を与えられると混乱してしまいやすいです。さらに、能力に偏りがあるため、特定のことだけができなかったり、繰り返してミスしたりしてしまいます。すると、学校や職場での社会生活・集団生活がつらく苦しいものになってしまいます。
発達障がいの人がこうした傾向を抱えながらも、自分なりに社会生活を送るためには、以下の4つの点がポイントだと言われています。
- 発達障がいに気づき、受け入れ、自分を認める
- 自分の特性を活かす職業に就く
- 挨拶など、最低限の社会性を身につける
- 家族や周囲の理解と支えがある
まずは発達障がいに本人または周囲の人が気づき、それを受け入れて認めた上で、自分の得意・不得意をしっかり理解する必要があります。得意分野がわかったら、その特性を活かした職業に就きましょう。
さらに、挨拶などの最低限の社会性はあらかじめ訓練で身につけておくと良いでしょう。もちろん、こうした気づきや理解、訓練には家族や周囲の人の理解と支えが不可欠です。
発達障がいの人の引きこもりの解決方法と相談先
発達障がいの人が引きこもり状態を抜け出すには、まず、自分の発達障がいと正しく向き合い、得意・不得意を知ることです。自分の振る舞いや考え方、感じ方が普通と違うと感じたら、医療機関や専門の支援機関などに相談すると良いでしょう。そこで発達障がいと診断された場合、ぜひ、家族や周囲の人にそのことを伝え、理解と強力を求めることが大切です。
そして、自分の得意・不得意を知り、得意分野を活かせるような仕事を探しましょう。発達障がいの人は、能力に偏りがある分、自分の特性に合った仕事に就くと、普通の人よりも良い評価を得られることも少なくありません。つまり、悪いところに目を向けるのではなく、良いところに目を向ければ、十分に社会貢献ができるのです。適材適所ということです。
それぞれの段階について、より詳しく見ていきましょう。
自分の発達障がいと向き合うには?
本人や周囲が発達障がいと向き合うには、次の4つのステップを意識してみましょう。
- 理解
- 本人の状況を正しく理解する
- 受容と認知
- 発達障がいを受け入れ、そのままの本人を認める
- 専門家に相談
- 医療機関や支援センターなどで専門家に相談する
- 必要に応じて治療
- 精神疾患など、二次障がいが発生していれば治療を行う
発達障がいの人は、自分の「できない」部分を叱責されたり、いじめられたりして育つことが多いため、自分に自信をなくして引きこもりになってしまうことが多いです。
そこで、本人がどういったことでつまずきやすいのか、苦手なことは何なのか、といったことを正しく理解しておく必要があります。これは、のちのち仕事を探す際にも重要なことです。
次に、発達障がいは生まれつきの疾患ですから、家族や周囲の人が本人のありのままを受け入れ、認めてあげることが大切です。発達障がいの人は幼少期からストレスに曝され続けて成長するため、一般的な感覚よりもストレスに対する抵抗力が弱い傾向にあります。理解のある話し方や接し方がポイントです。本人も、1人になって自分なりに冷静に考え、自分の状態と特徴を受け入れるクールダウンタイムを自主的に設けることが必要です。
その上で、専門家に相談してみましょう。厚生労働省は「ひきこもり対策推進事業」により、地域にひきこもり支援センターを設置・運営しています。このセンターには社会福祉士・精神保健福祉士・臨床心理士など、さまざまな専門家が配置され、引きこもりの本人や家族の相談に応じていますので、まずはこうした公共機関を利用してみるのがおすすめです。また、医療機関で専門医に相談するのも一つの手です。
発達障がいの二次障がいとして、対人恐怖症(社会不安障がい)・強迫性障がい(強迫観念や強迫行為)・抑うつ状態などの精神疾患を発症していると思われる場合は、初めから専門の医療機関に行くことをおすすめします。発達障がいは特性ですから、治療するものではありませんが、精神疾患は医療機関で治療できることが多いため、相談と並行して治療を行うのも良いでしょう。
発達障がいの特性に合った仕事を探すには?向かない仕事はあるの?
発達障がいの人は、能力に大きな偏りがあるため、仕事にも大きく向き不向きがあります。これについては個人の能力によってさまざまなパターンがあるため、一概に絶対とは言い切れませんが、例えば広汎性発達障がいの人はこだわりが強く、パターン化されたものを好む傾向から、同じ作業を繰り返すようなルーチンワークの職場に適していることが多いです。
他にも、一般的にADHDで成功している人には以下のような職業の人がいます。
- 研究者、学者、中学や高校の教師、塾や予備校の講師など
- 警察官、消防士、新聞や雑誌の記者、作家、ジャーナリスト、カメラマンなど
- イラストレーター、スタイリスト、漫画家、画家、建築家、プログラマー、デザイナーなど
- 調理師、調律師、自動車整備士、歯科技工士、電気技師、図書館司書、校正など
一方、アスペルガー症候群(自閉症スペクトラム)の人には以下のような職業が向いているとされます。
- 建築や工学の製図技術者、カメラマン、動物の訓練士、グラフィックアーティスト、工芸家など
- ウェブデザイナー、自動車整備士、プログラマー、数学や生物学の教師など
- 音楽家、物理や化学の学者、ジャーナリスト、翻訳者、司書など
- コピーエディター、会計士、簿記や記録管理担当者など
いずれも、自分の興味のある分野を突き詰めていくことが必要で、コミュニケーション能力などはそこまで重要視されない職業です。もちろん、これらの職業でなければ就職できないというわけではなく、あくまで一例ですが、興味を深く持てるものがあれば、その分野のスペシャリストになってしまうと良いでしょう。
また、これも一般的な例ですが、ADHDやアスペルガー症候群(自閉症スペクトラム)の人に向かない職業は以下のようなものです。
- 営業、接客業、人事、経理、総務など
- 交通や運輸関係、飲食関係、旅行関係など
- 金融関係、予約係、顧客窓口など
これらの職業は、いずれも高度な協調性、対人スキル、そして臨機応変な対応、複数のタスクを同時にこなす能力などが必要です。発達障がいの人の多くが、集中して1つのことに取り組むことができる反面、複数のタスクをこなしたり、高度なコミュニケーションを取ることが苦手な傾向があります。逆に言えば、これらの職業で失敗しても特性と違っただけのことですから、それで自分を責めすぎないことも大切です。
自分に合った職業を見つけるためには、以下の3つのポイントを書き出しながら探すと良いでしょう。
- 自分が何に興味を持つか
- 自分は何が得意なのか
- 1・2を利用して収入を得るにはどんな仕事があるか
このようにして探していくと、自分に合った職業が絞り込みやすくなります。職業選びで迷ってしまうようなら、ぜひ参考にしてみてください。
おわりに:発達障がいの人は生きづらさから引きこもりになりやすい
ADHD・LD・高機能自閉症など、発達障がいの人はその特性上、社会生活の上でつまずいてしまうことが多く、生きづらさを感じて引きこもりになりやすい傾向があります。しかし、逆にその特性を活かせば、十分に社会貢献ができるのです。
そこで、自分の得意・不得意を知り、興味が持てて得意なことを職業にしましょう。ある分野のスペシャリストなどは発達障がいの人に向いています。ぜひ、自分に合った職業を見つけましょう。
コメント