発達障がいの子どもはワーキングメモリーが少ないって本当?

ワーキングメモリという言葉を聞いたことがありますか?パソコンなどにも「メモリ」という一時的な記憶領域がありますが、同じような仕組みが人間にもあります。言い換えれば、人間の記憶がこのような仕組みになっているので、パソコンにも似たような機能を搭載したと言えるでしょう。

発達障がいの子どもでは、このワーキングメモリが少ないと言われています。では、ワーキングメモリが少ないと、どんな困りごとがあるのでしょうか?

ワーキングメモリーってなんのこと?

ワーキングメモリとは、必要な情報を一時的に記憶しておく機能のことです。例えば財布の中にいくら入っているのか思い出しながら買い物をする、目的地までの道順を考える、といったときにワーキングメモリを使っています。会話のときに、相手の話した内容を一時的に覚えておき、それに対して返答をする、といったことにもワーキングメモリを使うため、社会生活はワーキングメモリなしでは成り立たないと言っても過言ではありません。

ワーキングメモリは、認知心理学では「作業記憶」「作動記憶」などとも呼ばれる脳の前頭前野の働きの1つで、入ってきた情報を脳内に一時的にメモ書きし、そのうちどの情報に対応すべきかを整理し、不要な情報を削除する、という役割を担っています。前述の会話の例で言えば、一時的に相手の話を覚え(記憶=メモ書き)、話の内容から相手の意図を汲み取り(整理)、話が進むにつれ、前の話はどんどん忘れる(削除)という作業を無意識に行っているのです。

こうしたワーキングメモリによる情報処理は、読み書き・運動・学習などを含め、日常生活のさまざまな場面で使われています。ワーキングメモリが適切に働くことで、私たちは瞬時に適切な判断を行うことができるのです。ところが、このワーキングメモリの大きさには個人差があり、大きい人も小さい人もいます

ワーキングメモリは、よく作業机の大きさに例えられます。作業机が大きいと、入ってくる情報を一時的に置いておくスペースが多いため、置いておきながら整理・対応・削除といった作業がやりやすいのですが、作業机が小さいと、入ってくる情報を置いておくスペースがそもそも小さいため、置いておけない(=一時的に記憶できない)、整理できない、対応しないうちに削除されてしまう、といったことが起こります。

ワーキングメモリの機能や大きさは、成長とともにある程度は発達するものですが、その発達の度合いにもやはり個人差があり、一般的に発達障がいの人はワーキングメモリが少なく、記憶しておける情報量が少ないとされています。
例えば、頑張っていても授業に集中できず勉強が全く手につかない、先生の質問に答えられない、指示を理解し実行できない、といった状態はワーキングメモリ不足が原因の1つであり、本人の意思や頑張りとは別問題と考えられます。

発達障がいの人の多くが言葉やコミュニケーションに関する問題を抱えているのも、ワーキングメモリ不足が原因の1つと考えられています。ワーキングメモリが不足していると、相手が言ったことを覚え、意図を汲み、前の内容を忘れるという作業がスムーズに進まないため、会話の内容が覚えられず、返答として頭の中で言葉を組み立てられないのです。

ワーキングメモリ不足は本人の努力の度合いとは関係ないとはいえ、こうした状態を放置してしまうと、学校の授業についていけなくなって学力が低下したり、人間関係を構築できなかったりすることがあります。さらに悪化すると、失敗経験が積み重なって劣等感を抱いたり、人間関係がうまくいかないことで居心地の悪さを感じ、不登校などにつながってしまうケースも少なくありません。

ワーキングメモリーが少ないと、どんなトラブルが起こりやすいの?

では、ワーキングメモリが少ないと、具体的に会話以外にどんなトラブルが起こりやすいのでしょうか。記憶・整理・削除の3つのポイントに分けて見ていきましょう。

記憶が苦手な場合
  • 必要なことを忘れてしまいやすい
  • 先生の指示をすぐ忘れる、黒板をノートに書き写すのが遅い
  • 読んだ内容を覚えていられないため、文章の理解に時間がかかる
  • 頭に浮かんだ内容をすぐ忘れてしまい、長い文章を書くことができない
  • 忘れ物・なくし物が多くなるケースも
整理が苦手な場合
削除が苦手な場合
  • 削除できないと新しい情報が入ってこないため、行動の切り替えや連続的な会話ができない
  • 授業時間が終わっても次の科目に移れない、前の会話の内容を話し続ける、など

これらはあくまでも具体的な一例ですので、すべての問題が起こるとは限りませんが、ワーキングメモリ不足から起こることを理解していないと、子どもの努力不足だと思い込んでしまうことになりかねません。
ワーキングメモリ不足を知らないまま、努力が足りないのだと叱られ続けると、子どもが自信を失い、健全な自己肯定感や自尊心が育たなくなってしまう可能性があります

また、これらの状態はワーキングメモリ不足だけでなく、発達障がいの症状としてよく見られる感覚過敏や鈍麻、疲労感などの身体的な症状や、二次障がいとして現れる不安や抑うつ状態などの心理的な問題によっても現れることがわかっています。

いずれの場合も本人の努力不足が原因ではありませんので、叱責ではなく、どうしたら解決できるかを考えていくほうが良いでしょう。

子どものワーキングメモリーは鍛えられる?

ワーキングメモリは、訓練によってある程度鍛えることも可能です。もし、子どものワーキングメモリが少ないと感じたら、遊びの中で訓練していってあげると良いでしょう。
具体的には、「繰り返し遊び」という遊びがもっとも手軽で特別な道具も要らずに行えます。

繰り返し遊びとは、言った単語やセリフをそのまま子どもに復唱してもらう遊びですが、だんだんと言う単語の数やセリフの長さを増やしていき、少しずつ覚えられる量を増やしていくのが目標です。

例えば、「りんご もも みかん」というように果物の名前を言い、それをそのまま「りんご もも みかん」と復唱してもらいましょう。3つまで覚えられたら4つ、4つまで覚えられたら5つ、と1つずつ覚えられる数を増やしていくと良いでしょう。

そのほか、神経衰弱やしりとりなども、一時的な記憶とその整理・削除をメインに使う遊びですので、ぜひ積極的に取り入れていきましょう。数字や計算が好きな子なら、計算練習をたくさん行うのも良いでしょう。

また、遊びでなくても、生活の中でトレーニングを行うこともできます。例えば、「お父さんに『ご飯ができたよ』と伝えてきてね」など、伝言を頼みます。短い伝言ができるようになったら、「ご飯ができたから、手を洗ってきて」など、言葉の数を長くしたり、内容を複雑にしたりして、だんだんと伝えられること、覚えられることを増やしていきましょう。もちろん、できたらしっかり褒めることも大切です。

しかし、こうしたトレーニングは、最初のうちはワーキングメモリが少ないため、初めからあまりに多い単語や長い文章を覚えさせることはできません。最初はごく少ない単語、簡単な文の指示にとどめましょう。最初から多くのことをやらせすぎると混乱したり失敗したりして、かえって自信をなくしてしまいかねません

ゲームや指示などのトレーニングは、ワーキングメモリを伸ばすことが目的ですが、同時にトレーニングによって子どもに自信をつけてもらうことも大切な目的です。できることはしっかり褒め、少しずつ時間をかけてワーキングメモリを伸ばしていきましょう。

おわりに:発達障がいの子どもはワーキングメモリが少ないが、訓練で伸ばせることも

ワーキングメモリとは、一時的に情報を記憶し、整理し、いらないものを削除する役割を持つ脳の働きの1つです。発達障がいの人はこのワーキングメモリが少ないため、連続的な会話や、長い文章を理解できないのです。

ワーキングメモリは、遊びや日常生活の中の訓練で伸ばすこともできます。最初は少ない単語や短い文章から行い、徐々に増やしていきましょう。できたらしっかり褒め、能力とともに自信をつけることも大切です。

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