ADHDという言葉は、今ではそれほど珍しい言葉ではなくなりました。しかし、まだまだ「子供の病気」という考え方は根強く、大人になってもADHDの症状は続くということについては、意外と知られていません。
では、大人のADHDのセルフチェック、3つのタイプごとの特徴、日常生活での対処法を紹介します。
大人のADHDはどんな特徴があるの?
ADHDとは、日本語で「注意欠陥・多動性障害/注意欠如・多動性障害」などと訳され、「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの症状を主な特徴とする、発達障がいと呼ばれる状態の一つです。
「障がい」という言葉は何かとネガティブなイメージがつきまといやすいですが、発達障がいにおける「障がい」は「そのことを行うことに困難がある」という「状態」のことを指します。
ADHDの人は、自分をコントロールする力が弱いとされています。つまり、具体的には3つの症状によって以下のような状態になりやすいです。
- 不注意…集中力が続かない、気が散りやすい、忘れっぽい
- 多動性…落ち着きがない、じっとしていられない
- 衝動性…思ったことをすぐ口にしてしまう、衝動買いをする
これらの状態は、子供の時には多かれ少なかれ誰でも持っているものですが、定型発達の人では大人になるにつれて落ち着いていきます。
しかし、大人になってもこれらの症状が強く、日常生活や社会生活に支障をきたすようになると、大人のADHDの可能性があります。
仕事をはじめとする暗黙のルールが多い社会生活や人間関係、結婚や子育てなどのシーンでADHDによる支障が出やすいので注意が必要です。
ADHDは、かつては子供だけのものとされてきました。しかし、その後の研究によってADHDと診断された子供の半数以上で、大人になっても症状が続いていることがわかりました。
成人のADHDの割合は全体の2.5%程度で、男性の方が多いという結果が出ています。また、不注意症状は女性に、多動・衝動性は男性に現れやすいこともわかっています。
ADHDの原因は、まだはっきりとは解明されていません。しかし、「環境的要因」と「遺伝的要因」の2つの説が考えられており、特に「遺伝的要因による、脳の前頭葉の機能障害」つまり、脳の「考える力ややる気、感情、性格、理性」などを司る部位の機能が何らかの原因で働かなくなっている状態である、と考える説が有力とされています。
ADHDの3つのタイプ「不注意優勢型」「多動性・衝動性優勢型」「混合型」の特徴
ADHDの3つの症状のどれが強く発症するかによって、3つのタイプに分けられます。具体的には以下のように分けられます。
- 不注意優勢型
- 不注意の特徴が強く現れるタイプで、女性に多い
-
- ケアレスミスが多い
- 片付けや整理整頓が苦手
- 約束や時間を守れない
- 気が散りやすく、物事に集中しにくい
- その反面、やりたいことや好きなことには熱中しすぎてしまう
- 頻繁に物を置き忘れたり、なくしたりする
- 多動性・衝動性優勢型
- 多動と衝動の特徴が強く現れるタイプで、男性に多い
-
- 落ち着いてじっとしていられない
- 思いつきで発言や行動をしてしまい、それが不適切なこととわかっていない
- 物事に優先順位をつけられない、わからない
- 混合型
- 上記2つの特徴が混ざり合っているタイプ
-
- 忘れ物や失くし物が多く、落ち着きがない
- ルールを守ることが苦手で衝動的な行動が多い
また、ADHDが単独で発症しておらず、他の発達障がいと合併して発症していたり、二次障がいも合わせて発症している場合は必ずしもこの症状に当てはまらないこともあります。
ADHDが原因でうつになることがあるの?
ADHDによって、抑うつ状態などの二次的な障がいも発症してしまうことがあります。
これは大人になるにつれて、周囲から「大人なんだから」と暗黙の了解として高い自己コントロールを要求される場面が多くなるのに対し、ADHDの症状は社会的なルールにそぐわないため、周囲からわがままな人、だらしない人と思われて叱責を受けてしまいやすい状況に陥ることが関係しています。
努力しても改善できないつらさに加え、叱責されることで余計につらさが増してしまい、抑うつ症状に陥りやすくなるのです。
また、そもそも本人の並々ならぬ努力によって社会のルールに合わせようとした結果ADHDの症状がわかりづらくなり、二次的な抑うつなどの障がいで病院を訪れてはじめて、ADHDであったことがわかったという例もあります。
ADHDの人は幼少期から失敗経験が多く、周囲から非難されたり避けられたりしがちなことから、自分に自信が持てない、自尊感情が低いなど、自己肯定感が低いことが多いです。
「頑張ってもどうせうまくいかない」「ミスがないよう気をつけていても同じ失敗を繰り返してしまう」などの自分に否定的な考え方から、抑うつなどの二次障害につながることもあります。
ADHDは「長所」にもなる?特性をポジティブに捉えよう
ADHDの症状は、一見短所に見えやすいですが、見方を変えれば珍しい長所と考えることもできます。例えば、集中力がない特徴は「変化に敏感でよく気づく」という長所に、落ち着きがなく衝動で行動しやすいという特徴は「決断力・行動力がある」という長所にもなります。
ADHDの特性、個性の短所ばかりを見るのではなく、長所をうまく活かして社会で活躍している人も決して少なくありません。得意なことは伸ばし、苦手なことは無理なく自分に合った方法でカバーしていけば良いのです。
大人のADHDをセルフチェックしてみよう
大人のADHDかも?と思ったら、以下のセルフチェックをしてみましょう。18項目中、当てはまる項目が10項目以上ある場合はADHDかもしれません。思い当たるところがあれば、診断を受けるだけでも受診してみると安心です。
- 何かするとき、難しいところは出来ても、最後まで仕上げられない
- 計画を立てるとき、物事を順序立てて考えることができない
- 人との約束や、しなければならないことを忘れてしまう
- じっくり考えなくてはならない問題を先延ばしにしたり、避けたりする
- じっと座っていなくてはならないとき、手や足をそわそわ、もぞもぞ動かしてしまう
- 何かに突き動かされるように活動し続けたり、何かせずにはいられなくなってしまう
- 仕事の難しさにかかわらず、よく不注意でミスをしてしまう
- 単純な繰り返し作業などをするとき、集中力が続かない
- 直接話しかけられていても、話に集中できない
- 物を置き忘れたり、どこに置いたかわからなくなる
- 外からの刺激や雑音で気が散ってしまう
- 会議などで座っていなくてはならないとき、つい席を立ってしまう
- 時間に余裕があっても、一息ついたりくつろいだりするのが苦手
- 落ち着かない、またはそわそわした感じがよくある
- 人と交流するとき、つい喋りすぎてしまう
- 相手が話し終わる前に、会話をさえぎって話してしまう
- 順番待ちしなくてはならないのに、待っていられない
- 何かやっている人の邪魔をしてしまう
ADHDかも…と思ったら、どこに相談すればいいの?
ADHDのセルフチェックや、ADHDの症状として一般的に言われている症状に心当たりが多く「もしかしたら自分はADHDかもしれない」と思ったら、まずは以下の無料で相談できる場所に相談してみましょう。
- 発達障害者支援センター
- 生活から仕事に関することまで、発達障害を幅広くサポートしてくれる施設
施設によっては、発達検査を受けられるところも - 障害者就業・生活支援センター
- ハローワークや病院、その他の関係機関と連携して障害のある人の支援を行う
- 相談支援事業所
- 個々の人に合わせた障害福祉サービスなどの利用についての案内をしてくれる
利用計画案を作ったり、その見直しもしている
これらの場所で相談し、ADHDの可能性が高いとわかったら、病院(精神科・心療内科・メンタルクリニックなど)を利用することを勧められることがあります。もちろん実際に病院で診断を受けるかどうかは個人の自由で、相談だけで終わることもできます。しかし、ADHDの疑いが強く、かつ生きづらさを感じている人は、ADHDであると確定診断されれば、その原因が本人ではなく先天的な症状であるとはっきりさせることができます。
ADHDであるとはっきりわかれば、医師に対処の方法や日常生活でのアドバイスを受けることもできます。また、生きやすくするために必要な環境づくりや、職場や身近な人の理解も得やすくなります。もちろん、病院には守秘義務がありますから、勝手に相談内容が家族や身近な人に知らされることはありません。
ADHDの診断はどうやってするの?
ADHDの診断は、面接・医学的検査・心理検査など、複数の検査結果をふまえて総合的に行います。
- 面接…ADHDのための成人用評価スケール(CAARS)などでの診断
- 医学的検査…身長・体重測定、脳波検査、血液検査、心電図など
- 心理検査…成人用の知能検査(WAIS)など
評価スケールとはいわゆる問診に近いもので、特に成人用ADHD検査の「CAARS」の場合、自分で記入するものと観察者が記入するものの両方から診断することがあります。アメリカ精神医学会による「精神障害の診断・統計マニュアル」すなわちDSM-IVの専門医がこれを利用して診断することになります。
また、医学的検査では他の病気や異常などがないかの診断を行うとともに、ADHDの人に多い脳波の異常を測定します。さらに、薬物治療を行う場合は心電図に異常がないかの検査も合わせて行います。
大人のADHDで病院に行くときの注意点はある?
ADHDかも?と思って通院するときには、いくつか心に留めておくと良いポイントがあります。以下の3つの点に注意して病院を受診しましょう。
- 情報収集をしっかりしよう
- かつてはADHDと言えば、子供の病気でした。そのため、成人のADHDに対応できない病院もまだまだあります。そこで、あらかじめ支援センターなどで大人のADHDに対応できる病院を紹介してもらったり、情報を集めてから通院先を選ぶのが良いでしょう。
- 診断結果が出るには時間がかかる
- ADHDの検査は、ウイルスや細菌のように「ある」「ない」ではっきりと区別がつくものではありません。そのため、診断結果が出るまでには数ヶ月程度かかることもあります。もし、障害者手帳の取得を考えている場合は、診断結果が出てからさらに6ヶ月程度かかることもあります。手帳の取得を検討している場合、早めの受診がおすすめです。
- 必ずしもADHDとは限らない
- 検査の結果、ADHDではないと診断されることもあります。しかし、検査でADHDという結果が出なくても、検査や問診・テストを受ける中で、自分の個性や特性について見つめ直し、少しずつ理解していくことはできるはずです。診断が出る、出ないだけがすべてではないことを理解し、日常生活の中で自分が生きやすくなるような工夫をしていきましょう。
これらのポイントをふまえ、自分がどうなりたいか、どう生きていきたいかのビジョンをぼんやりとでも考えてから受診すると、より有益な時間にすることができるでしょう。
おわりに:大人のADHDで生きづらい人は、一人で悩まず相談や受診を
大人のADHDは、まだまだ一般的に知られてない症状です。そのため、自分の努力が足りない、大人になりきれていない、などと自分を責めて二次的な抑うつ症状などを発症してしまう人も多いです。
努力しても、どうしても生きづらさを感じる場合は、ぜひ一人で悩まず相談したり、病院を受診したりしてみましょう。もちろん、誰にも知られないセルフチェックからでも構いません。大事なのは、最初の一歩を踏み出すきっかけなのです。
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