従来、障がいのある子どもとそうでない子どもへの教育環境は、全部または一部分けられてきました。
今回は、そんな従来型の教育観を覆す新しい考え方「インクルーシブ教育」とは何か、そのメリット・デメリットや、実現のために必要なことをまとめて解説します。
インクルーシブ教育って、どういう教育のこと?
インクルーシブ教育とは、共生社会の実現をめざし、障がいのある子どもとそうでない子どもが一緒に教育を受けられるようにしよう、という考え方です。
2006年12月の国連総会で採択された「障がい者の権利に関する条約」で初めて示され、近年では一般的にも知られる言葉となってきました。
国連がめざす「共生社会」とは、障がい者等もその他の人、いわゆる健常者と同じように積極的かつ十分に参加・貢献できる社会のことです。
このような背景から、障がいのある子どもとそうでない子どもが一緒に学ぶ環境の整備は必須で、そのシステムは以下3つの観点から作られるべきだとされます。
- インクルーシブ教育システムの構築に必要な3つのこと
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- 障がい者が一般的な教育制度から排除されないこと
- 自分が生活する地域で初等中等教育の機会が与えられること
- 個々に必要な合理的配慮が提供されること
障がいの有無にかかわらず個々人への合理的配慮をして、障がいのある子どもとそうでない子どもが一緒に学べる環境を整備していくことが、強く求められているのです。
インクルーシブ教育のメリットとデメリットって?
インクルーシブ教育によるメリット・デメリットを、教育にかかわる障がいを持つ子どもたちとその保護者、周囲の子どもたち、教育者の3つの視点から見ていきましょう。
障がいをもつ子ども、その家族にとって
- メリット
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- 公立学校に通える可能性が高くなり、遠方の特別支援学校を選択しなくてもよくなる
- 健常の子どもたちと一緒に学ぶことで、今まで受けられなかった教育を受けられる
- デメリット
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- 他の子どもたちの前で合理的配慮を受けることに、本人が心理的負担を感じる恐れ
- 親や教員の目の行き届かないところで、周囲の子どもからいじめを受ける可能性がある
障がいのある子どもと一緒に教育を受ける、周囲の子どもにとって
- メリット
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- 幼いうちから障がい者と接することで、多様性への意識が早くから芽生える
- 共生社会の理念を理解できれば、将来的な共生社会の実現に貢献できる
- デメリット
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- 障がい者への合理的配慮により、授業全体の進行が遅れる可能性がある
- 合理的配慮を見て、共生社会や多様性ではなく違いに目がいき、差別意識が芽生える可能性もゼロではない
子どもたちに教育を提供する機関・人にとって
- メリット
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- 将来的な共生社会の実現のために、社会貢献ができる
- 多様な子どもたちとかかわることで、保育スキルや療育、医学的知識が身につく
- デメリット
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- インクルーシブ教育が可能な環境整備のためには、一定の予算が必要
- 行うべき合理的配慮の線引きが難しく、授業が滞ったり業務が増加するリスクがある
インクルーシブ教育の実現のために行政で必要なこととは?
インクルーシブ教育を実現するには、まずはさまざまな事情を持つ子どもたちが一緒に学べる、基礎的な環境整備が必要です。
例えば、四肢に障がいがある子どもにはスロープやエレベーターが必要ですし、多動や医療的ケアが必要な子どもには、ボランティアスタッフや看護師の配置が必要ですよね。
この現状を踏まえ、文部科学省には以下4つの事業を行う「インクルーシブ教育システム構築事業」を、2013年から推進しています。
- インクルーシブ教育システム構築事業の内容
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- 新たな就学先決定のための情報提供や支援、コーディネーターの配置
- 障がいのある児童を専門的に支援するための、小中学校への人員の配置
- 教室内での合理的配慮を実現するための、合理的配慮協力員の配置
- 学校で医療的ケアを提供するための、看護師の配置や活躍推進
文部科学省は、上記4つの柱をもとに推進するインクルーシブ教育システム構築事業の成果を、毎年ホームページで公開しています。
ぜひ確認して、インクルーシブ教育とその実現のために行われている事業への理解を深めてくださいね。
おわりに:インクルーシブ教育の実現には、障がいのある子ども・周囲の子ども双方にメリットがある
環境を整備し、合理的配慮をすることで障がいのある子どもとそうでない子どもが同じ教室で学べるようにしようという教育観が、インクルーシブ教育です。この考え方は幼い頃から多様性を理解し、障がい者も社会参加・貢献できる共生社会を実現するために必要な教育観として、2006年12月に国連総会で示されました。まだまだ行政による基礎的な環境整備をしている段階ですが、今からしっかり理解を深めておきましょう。
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