自閉症は環境によるものではなく、脳の機能障がいという生まれつきの疾患であるり、成長した子どもだけでなく赤ちゃんの頃から自閉症の性質を持っています。
自閉症の赤ちゃんは後追いの有無やクレーン現象、逆さバイバイという特徴的な行動で、定型発達の子どもとの違いがみられるようです。今回は、そんな中でも比較的気づきやすい赤ちゃんの自閉症のサインについてご紹介します。
親が自閉症と気づけるのは赤ちゃんが何才くらいのころなの?
一般的に、医療機関で医師の診察を受け、自閉症と診断が下せるのは3歳頃だと言われています。この頃になると自閉症の特徴である社会性や感覚機能の問題が徐々に見えやすくなってくるからです。しかし、診断を待たずともその兆候や可能性に気づくことができれば、必要な療育などの赤ちゃんにとっても両親にとっても良い対応を早めに始めてあげることができます。
もちろん、赤ちゃんが自閉症ではないかと必要以上に神経質に行動を見張るようなことをする必要はありません。例えば、偏食が激しく離乳食を決まったものしか食べられない、抱っこを異様に嫌がる、などは一般的な赤ちゃんにあまり見られにくい行動で、こだわりの強い自閉症の子どもにありがちな特徴ですから、こうした特徴が見られたら注意するという程度で良いのです。
このように、何かおかしいなと思う症状は3歳を待たずとも、数ヶ月や1〜2歳頃から現れることもあります。両親や身近な大人が明らかな違和感を感じるような行動や、育児の上であまりに困っていることがあれば、一度専門家に相談してみるといいでしょう。
もしかして…こんな症状があったら自閉症かも?
自閉症の原因は先天的な脳機能の障がいであり、教育やしつけなどの環境によるものではありません。そのため、もちろん赤ちゃんの頃からも症状が現れることがあります。自閉症の「3つ組の障害」と呼ばれる症状のうち、3歳までに見られる特徴には以下のようなものがあります。
- 社会性の障がい
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- 人見知りが激しい
- 両親などの保護者を追いかける「後追い行動」が少ない
- 他人や同じ赤ちゃんへの関心が薄い
- 言語コミュニケーションの障がい
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- 言葉を発するのや語彙が増えるのが遅い
- 独り言が多く、積極的に会話をしようとしない
- 相手の言葉にオウム返しする
- 想像力の障がい
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- いつもと同じ状態にこだわる
- イレギュラーな事態が起こるとパニックになる
自閉症の赤ちゃんは、定型発達の赤ちゃんと比べて社会性が十分に育たないため、周囲の大人や子どもなど、人間に対しての関心が極端に薄い傾向があります。すると、視線を合わせない、激しく人見知りをする、後追い行動をほとんどしない、などの行動となって現れてきます。逆に、相手との距離感がわからず、初対面の人にでも馴れ馴れしくべったりして周囲を驚かせることもあります。
また、自閉症の人は独自の言語感覚を持っていることが多いため、赤ちゃんでは言葉を覚えたり使い始めるのがとても遅い場合があります。相手の言葉をきちんと理解することができず、単に真似をしてオウム返しするだけになることも多いです。これらの言語によるコミュニケーションが難しいのも自閉症の人の特徴です。
これらのの他にも、付随症状と呼ばれる症状が現れることがあります。注意欠陥・多動性障害などで知られる「多動」という落ち着きのない行動や、耳ふさぎ・偏食などにつながる「感覚過敏」、睡眠のリズムが乱れる「睡眠障害」などが付随症状としてよく見られます。
注意したい発達障がいのサイン「クレーン現象」と「逆さバイバイ」
特に幼児期に出やすい症状に、「クレーン現象」と「逆さバイバイ」というものがあります。まずはそれぞれの症状について詳しく見ていきましょう。
- クレーン現象
- 何かしてほしいことがある時、言葉や指差しでなく大人の手を掴んで目的の場所やものに近づけようとする現象のこと
工事現場のクレーンを操る行動に似ていることから、クレーン現象と呼ばれる - 逆さバイバイ
- 誰かと「さようなら」の挨拶をするとき、相手に手のひらを向けるところで、自分の方に手のひらを向けて「バイバイ」と手を振る現象のこと
相手のしていることの意味を理解できず、ただ行動そのものを鏡のように真似しているだけ
「クレーン現象」とは、ゲームセンターのUFOキャッチャーや工事現場で使う「クレーン」のように、自分が大人にしてほしいことがあったとき、言葉や指差しではなく大人の腕を掴んで「取ってほしい」「何かをしてほしい」ということを訴えることを言います。
クレーン現象は定型発達の子どもでも時々見られる現象ですが、自閉症の子どもでは言葉が出ない、言語コミュニケーションの発達が遅れているため、定型発達の子どもと比べてかなり頻繁にこの行動を行う様子が見られます。
赤ちゃんが最初に発する「ママ」「パパ」などの名詞だけで構成された文を一語文と言いますが、「ママ」+(指差しで物を示す)、「パパ」+(指差しで物を示す)などの名詞+指差しで構成された文を二語文の出始めとする見方があります。つまり、「指をさす」という行為は言葉の一つと考えられているのです。自閉症の子どもは言葉や身振り・手振りの発達が遅れているため、「指をさしてその先のものに対する何かを周囲の人に訴える」というコミュニケーションも出来ないことが多いのです。
「逆さバイバイ」とは、バイバイと手を振るとき、その手のひらの向きが逆になってしまう現象のことです。誰かとさようならと挨拶をするときは、相手の方に自分の手のひらを向けます。赤ちゃんはこれを見て自然に覚え、定型発達の子どもであれば自分と相手の見え方の違いまでを理解し、特に向きまで教えなくても挨拶のときは相手に手のひらを向けて「バイバイ」をします。
しかし、自閉症の子どもでは想像力や社会性に障害がありますので、相手からどう見えているのか、これはどういう意味のコミュニケーションなのか、といったことがなかなか理解できません。そのため、相手からされたことをそのまま真似し、自分の方に手のひらを向けて「バイバイ」と手を振ります。これは「オウム返し」なども似た状態で、ただ行動を真似しているという状態です。
写真を撮るときにピースサインを裏返しにしたり、絵本を逆さまにして読むこともあります。ただし、これらの現象はたまたま先生のピースの癖を真似していたり、さらに絵本を読んでくれる人の位置まで気遣ってあえて逆向きに持っていることもありますので、自閉症とは全く関係ないこともあります。
発達障がいでもクレーン現象や逆さバイバイをしない子もいる?
自閉症は、正式には「自閉症スペクトラム(ASD)」と言い、「スペクトラム=連続体」という言葉が表すとおり、軽い人から重い人まで症状はさまざまです。知能も定型発達の子どもに比べて遅れている子から優れている子まで色々な人がいます。ですから、自閉症の子どもでもクレーン現象や逆さバイバイの症状が現れない子もいますし、逆に定型発達の子どもでもこれらの現象が見られる子もいます。
ですから、あまり一つの行動だけを取り上げて「クレーン現象が起こったから自閉症なのではないか」と、過剰に心配したり、一喜一憂したりしなくても良いのです。両親などの保護者たりうる大人が不安になりすぎてしまうと、赤ちゃんにも良い影響はありません。実際に自閉症スペクトラムなどの発達障がいがあるかどうかは3歳ごろからさまざまな検査をしてみないとわからないのです。
ただし、あまりに偏食で一種類のものしか食べられない、少しでもいつもと違うことがあるとパニックで何時間も泣きわめき続けてしまう、睡眠時間が少ない、など、赤ちゃんの健康面に影響するような困りごとがあれば、小児科の専門医に相談してみましょう。
そこまで緊迫した状況ではないけれど、行動がどうしても気になる、という場合はまずお住まいの地域の子育て支援センターや児童発達支援相談所などに相談してみるのがおすすめです。発達障がいの疑いが強いかどうか、強いならどういったところに相談したら良いか、などの適切なアドバイスをもらえます。
おわりに:自閉症は赤ちゃんの頃から症状が現れることもある
自閉症と診断を下すことができるのは3歳頃のことですが、その前から自閉症の症状が出ていることもあります。特に、クレーン現象や逆さバイバイといった特徴的な現象が頻繁に見られる場合、自閉症の可能性が高いと考えられます。
しかし、その行動だけを気にしすぎて不安に囚われてしまうのも良くありません。どうしても子どもの行動が気になるようであれば、まずは地域の子育て支援センターなどに相談してみましょう。
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