発達障がいの中でも、とくに共感能力の欠如が指摘され、対人関係やコミュニケーションに問題を抱えやすいアスペルガー症候群の人ですが、本人の悪意や努力不足ではなく、脳機能の問題であることがわかってきています。
そこで、周囲にアスペルガー症候群の人や、それと思わしい人がいたとき、どのように接したらいいのかご紹介します。家庭と職場での違いについても一緒に見ていきましょう。
アスペルガーの人と接するとき、まず理解しておくこととは?
アスペルガー症候群は、現在では「自閉症スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)」と区分される発達障がいの1つで、主に以下のような特徴があります。
- 相手の気持ちを想像したり、場の雰囲気や暗黙のルールなどを理解したりするのが苦手
- 言葉の使い方が独特で、ユーモアやお世辞、皮肉や比喩を理解するのが難しい
- 耳から入ってくる情報を処理するのが苦手で、会話についていけなくなることがある
- 決められた手順やスケジュールにこだわり、新しい状況や予想外の事態に対応しにくかったり、対応を嫌がったりすることがある
こうした特徴が現れるのは、生まれつきの脳機能に原因があり、本人の性格や努力不足によるものではないことがわかっています。しかし、そのため一方で自分の言動が他人に与えてしまう影響にまで想像が及ばず、場の雰囲気に沿わない発言や率直すぎる発言をしてしまうこともあります。
アスペルガー症候群の人は、その特性上「空気が読めない」「怒りっぽい」などと判断されてしまいやすいのですが、本人に悪意があることはほとんどありません。そこで、本人自身も自分の特徴や特性を把握しておくことは重要ですが、さらに周囲の人もその人に合わせた接し方を知っておくと、コミュニケーションの問題が起こりにくくなります。
具体的には、以下のような4つのポイントに気をつけましょう。
- 定型発達の人とは物事の感じ方が違う
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- 発達障がい、またはその傾向のある人の中には、普通の人と比べて特定の感覚が過敏だったり、独特の理解の仕方や感じ方をしたりしている人がいる
- 相手は自分と違う感じ方や受け取り方をしている可能性がある、と常に念頭に置いておく必要がある
- 聴覚過敏などの場合もあるため、声の音量や話し方にも注意するとよい
- 理論的・具体的に説明する
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- 曖昧な指示では理解できず、正確に実施できないことがあるため、数値化したり例を出したりなど、指示を具体的に出すようにする
- 口頭で伝えただけでは忘れてしまうことが多いため、指示は紙に書いて渡したり、ホワイトボードに残したりしておくとよい
- 指示系統を統一する
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- 複数の人から指示があると本人が混乱してしまうため、指示系統を統一する
- なるべく1対1のコミュニケーションを心がける
- スケジュールはなるべく早めに伝える
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- 予定が急に変更されると混乱してしまうことが多いため、スケジュールやその変更はなるべく早めに伝える
まず、「空気が読めない」と評されてしまうような率直な発言は、場の雰囲気や暗黙のルールを理解するのが苦手だという特性によるものです。また、アスペルガー症候群の人は言葉の使い方が独特なことがあり、これが余計にコミュニケーションや対人関係に障害をもたらしやすくなっています。そのため、周囲の人もこの点を念頭に置いてコミュニケーションすると良いでしょう。
耳から入ってくる情報を処理しにくい、予想外の事態に対処しにくい、というのも発達障がいの人の「脳のワーキングメモリが少ない」という脳機能の特徴に由来します。ワーキングメモリとはいわゆる短期記憶のことを指し、声を情報として脳が処理したり、口頭で伝えられた指示を一時的に覚えておいたりするのに重要です。発達障がいの人ではこのワーキングメモリが少ないため、会話や口頭での指示が苦手で、イレギュラーな事態に対応しにくいのです。
家族がアスペルガーの人と接するときの注意点は?
家族や恋人、パートナー(配偶者)など、非常に近い関係の人がアスペルガー症候群である場合、本人も周囲もその特性を理解したコミュニケーションを行わないと、お互いに大きなストレスを抱えてしまいかねません。そこで、まずは以下のような対応のポイントを心がけましょう。
- アスペルガー症候群の特性を理解する
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- まずは家族やパートナーがアスペルガー症候群の症状や特性について正しい知識を身につける
- 「家族や恋人などの身近な人たちが自分を理解して、サポートしてくれる」と本人が思えるような環境が整うと、精神的に安定した生活を送りやすくなる
- 生活する上で暗黙のルールではなく、具体的なルールを決める
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- いわゆる「常識」と呼ばれることでも、アスペルガー症候群の人には想像できないこともたくさんある
- 日常生活での混乱や食い違いを防ぐため「処方された薬は棚の2段目に入れる」「週末の食器洗いは家族で順番に行う」など、生活の具体的なルールや役割分担をあらかじめはっきり決めておくとよい
- 感情的にならず、話し合いの場を設ける
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- 近い関係性の人ほど「言わなくてもわかってほしい」と思ってしまいがち
- アスペルガー症候群を持った人に感情的に不満をぶつけても、相手の気持ちを想像することが苦手な特性が強いと、逆効果になってしまう
- 改善してほしいことは小さなことでも具体的に話し合い、一緒に解決していく姿勢が重要
- カウンセリングや家族療法を受ける
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- 上記のようなさまざまな工夫を凝らしてもお互いに疲弊してしまう場合、カウンセリングや家族療法を受ける方法もある
- アスペルガー症候群の人とその周囲の人の間で、価値観の違いが生まれてしまうことも
- 周囲の人が心身に不調を生じる「カサンドラ症候群」などになってしまう恐れも
アスペルガー症候群には個人差が大きく、苦手なことや得意なことも人によって違います。そのため、家族や周囲もアスペルガー症候群について正しい知識を身につけ、本人にとって過ごしやすい環境を整えてあげると、本人も精神的に落ち着くことができ、安定した生活を送りやすくなるでしょう。
また、家族間やパートナー間など、お互いの間だけで解決しにくい場合は、本人と周囲の人が一緒にカウンセリングや家族療法を受けるのも良いでしょう。カウンセラーなど第三者の視点から冷静に状況を整理できれば、環境を整えられるかもしれません。こうしたカウンセリングや家族療法は精神科や心療内科で受けられますし、他にも発達障害者支援センター、精神保健福祉センター、自助会などで相談できることもあります。
アスペルガー症候群の当事者が子どもなら、専門の医療機関に相談したり、ペアレントトレーニングを受けたりするという方法があります。まずは診断を受けて子どもの特性とその対処法を知り、「親が最良の治療者」という考えのもと、アスペルガー症候群を発症した原因よりも、どうすれば治療・療育できるのかという部分に着目してトレーニングを行います。
他にも、アスペルガー症候群(自閉症スペクトラム)親の会など、自閉症スペクトラム症の子どもの家族を対象とした家族会やサポートグループに参加するのも良いでしょう。こうした自助会は安心して相談できる会ではありますが、参加するのに勇気がいるという人は、まずは医療機関など通いやすいところから始めるのがおすすめです。
職場のアスペルガーの人と接するときのポイントは?
職場にアスペルガー症候群の人がいるときは、まず業務面で以下の4つのポイントを工夫してみましょう。
- 図や文字を使い、注意点や手順を指示する
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- アスペルガー症候群の人は耳からの情報処理が苦手で、目からの情報の方がわかりやすいという特性が強い人も多い
- 口頭での説明が長くなると聞き取れなかったり、指示が理解できなくなったりすることも
- メールやメモなどの文書をうまく利用し、図や文字などの視覚情報を交えて伝えるとよい
- 複数の業務を同時に指示しない
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- 一度に多くの情報を処理するのが難しい特性上、複数のことがらを同時進行するマルチタスクも苦手な人が多い
- 業務の手順を説明しても、作業に優先順位をつけられないことも
- 業務はできるだけ1つ1つ指示し、手順などの説明なら図も使うとよい
- 感覚の過敏性に配慮する
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- 視覚や聴覚などの感覚が過敏な人では、職場の照明が明るすぎたり雑音がうるさすぎたりすると仕事に集中できないことも
- 本人とよく話し合い、席にパーテーションを設けたり、ノイズキャンセリングイヤホンの使用を認めたり、雑音の少ない場所に席を配置したりするなどの工夫をするとよい
- 仕事環境をできるだけシンプルに整えるということがポイント
- できないことを責めるよりも、できることを評価する
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- アスペルガー症候群のある人は、叱責を受けると極端に受け取ってしまうことが多い
- 強い不安を覚えたり、必要以上に自己評価が下がってしまったりすることもある
- 言葉を額面通りに受け取り、自分の人格を否定されたように感じてしまうため
- 自分が叱責された理由がわからず混乱してしまうこともあるため、ミスがあったら「どうすれば良かったのか」も同時に伝える
- 強い否定の言葉は使わず、良い面を評価して本人に伝えていくことも大切
また、これまでに対人関係やコミュニケーションで苦労してきた経験から、対人関係そのものに強い苦手意識を持っている場合もあります。すると、業務上必要な報告や相談を誰にすればよいかもわからず、滞ってしまう可能性もあります。そこで、あらかじめ窓口や相談相手になる人を決めておくと、仕事の指示や相談もスムーズに行いやすいです。
他にも、休憩時間に対する配慮も必要です。声かけをしないと過集中になってしまい、ご飯を食べ忘れたり、休憩を取り忘れたりすることもあるため、休憩時間には誰かが声をかけて昼食や休憩を取るよう促してあげると良いでしょう。昼食時の雑談が精神的な負担になる場合は、会議室などで昼食を一人で取るのを認めるなどの配慮があると本人も仕事がしやすいでしょう。医療機関を受診するときに、ある程度優先して休みを取れるような体制や配慮も必要です。
おわりに:アスペルガーの人の特性をよく理解して、ときには専門家の手も借りよう
アスペルガー症候群の人に対する周囲の関わり方としては、まずその特性に対して正しい知識を身につけることが重要です。例えば、場の雰囲気や暗黙のルールを理解しにくかったり、耳からの情報を処理するのが苦手だったりすることです。
家庭でも職場でも、こうした特性に配慮した工夫が重要です。とはいえ、家族やパートナーの場合は対応に疲れきってしまうこともありますので、専門家の手を借りることも検討しましょう。
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