アスペルガー症候群は、2013年に改定されたアメリカ精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル」第5版で「自閉症スペクトラム」という診断名に含まれることになりました。自閉症スペクトラムの子どもは、程度の差こそあれ、何らかのコミュニケーションの困難さを抱えるとされています。
この記事では、アスペルガー症候群の子どもに起こりがちなコミュニケーションの困りごとと、トラブルの対処法についてご紹介します。
アスペルガーの子どもに起きがちなコミュニケーションの困りごとは?
アスペルガー症候群の子どもは、話し方がちょっと変わっているものの、会話ができなかったり、嫌いだったりというわけではありません。
お喋りなタイプのアスペルガー症候群の子どももたくさんいますが、話し方が変わっていることで、総じて会話がなかなか続かないという傾向にあります。例えば、以下のようなポイントが会話において引っかかりやすいです。
- 話し方が回りくどい、曖昧が苦手、細かいところにこだわる
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- 「今日はどうやってここに来たの?」という質問に、何時何分に家を出て、何時のどこのバスに乗って、と詳しく説明しすぎてしまう
- どれが質問に対して大事な情報なのかの取捨選択ができないと考えられる
- 「最近どう?」などの曖昧な質問に対して、「どうって何のこと?元気かということ?勉強のこと?家族とのこと?」など、細かく聞き返しすぎてしまうことがある
- その場で何が話題になっているのかや、相手の言外の意図を汲み取るのが苦手なため
- 大人びた難しい言葉や、場にそぐわない丁寧語を使う
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- 手伝ってほしいときに「援助が必要です」と言ったり、家族や同級生など親しい間柄の相手にもですます調で話したりする
- 基本的に、アスペルガー症候群の子どもは友人同士の会話よりもテレビや本などから会話を学ぶことが多い
- 辞書で覚えた難しい熟語やことわざなどを気に入って頻繁に使うこともある
- 母親といる時間が多い男の子が、女の子のような言葉遣いをしてからかわれることも
- たいていの子どもは自分の性別に合った言葉の違いを認識して使い分けるが、アスペルガー症候群の子どもはそうした使い分けが苦手
- 一方的で相手への配慮に欠ける話し方をする
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- 自分の興味・関心があることを、相手の興味に構わず一方的に話し続けてしまう
- 相手の反応を伺いながら話すということがないため、相手が迷惑そうな表情をしていても気づかない
- 話が飛んだり、難しい専門用語を説明もなく使ったりしてしまい、聞く相手の予備知識に配慮していない唐突な印象を与えてしまう
- 言外の意味を汲み取れない
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- 言葉の裏の意味を理解することが難しく、「お母さんいますか」と電話で聞かれて、買い物で出かけているのに「はい、います」と聞かれたままに答えてしまう
- 慣用表現が理解できず、「先生に注意されて、お母さん耳が痛かった」と言うのに対して、鎮痛剤を持ってきてくれたりする
- 皮肉やほのめかしなども意図を汲み取れず、会話が成り立たなくなってしまう
- 言葉を間違って使う
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- 一見、難しい言葉なども使うため、正しく使っているように聞こえる
- よく聞くと、文法的に微妙に間違っていたり、助詞がところどころ抜けたりというおかしな話し方をする
- 「そこ、ここ」「もらう、あげる」など、視点の違いも混乱しやすい
- 思考を言葉に出す
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- 小さな声で独り言を言ったり、考えていることを声に出したりする
- 相手の言ったことを小声で繰り返してから返事をする、という子もいる
- とつとつとした話し方や、駄洒落などを好む
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- 会話の内容よりも、音声に関心があり、やたらと語呂合わせの駄洒落ばかり言うことがある
- しゃべることはできても、言語を深く理解したり話を聞いたりすることは苦手
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- 子どもの理解力の範囲で話さないと、よくわかっていなくてもわかったつもりになってしまう子がいる
- 相手の話以外のこと(相手のアクセサリーや髪型など)に気がそれやすく、話の筋が追えないことも
- ジェスチャーや表情、距離のとり方など言外のコミュニケーションが独特
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- アスペルガー症候群は言外のコミュニケーションが苦手とされるが、自ら言外のコミュニケーションをするときも独特になりがち
- 相手の顔を見ないで話したり、逆に相手の顔をじっと見つめすぎて変だと思われたりする
- 思春期以降になると、ジェスチャーが大げさすぎて不自然に目立ってしまうことも
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人と人とが会話することは、言葉や仕草・視線などをお互いに投げ合う「言葉のキャッチボール」と言われます。アスペルガー症候群の子どもはこの「キャッチボール」に象徴される、コミュニケーションのやり取りが苦手なのです。決してふざけているわけでも、相手に興味や関心がないわけでも、孤独を好んでいるわけでもありません。
相手の言外の意図を推測したり、相手の反応を見ながら自分の動きや言葉を調節していったりといった脳機能に障害があるため、苦手なのです。さらに、緊張した状況に置かれると普段どおりに喋れなくなったり、逆に自分の関心のある分野の話題ではペラペラと喋り続けたりしますが、こうした言動も脳のコミュニケーション機能に障害があることによるものと考えられます。
コミュニケーションのトラブルは、どうすれば解決できる?
では、上記のようなコミュニケーションの難しさを踏まえた上で、それらがトラブルにつながらないようにする、あるいはトラブルを解決するためには、どうしたら良いのでしょうか。ポイントとしては、アスペルガー症候群の特性に着目して対策を講じることです。
1つ目に、暗黙のルールや冗談が理解出来ない、というものがあります。しかし、アスペルガー症候群には「決まりごとやルールに沿うのは得意」という特性があります。これを利用し、理解できなかった暗黙のルールを1つ1つ全て言語化・文字化してしまい、理解が難しいようなら図を描いたりして、オリジナルの「暗黙のルールマニュアル」を作ってしまえば良いのです。
また、暗黙のルールの中には「言ってはいけないこと」というものもあります。悪気はなくてもストレートにものを言い過ぎて、相手を傷つけてしまうのです。このような場合も「こういう場面ではこういうことは言わない」とマニュアル化してしまうと良いでしょう。
2つ目に、興味や関心が限定的なことが挙げられます。自分の興味がある話題は相手のことを考えられずに喋り続け、興味がない話題では「興味がない」とストレートに伝えすぎて相手を怒らせたり、傷つけたりしてしまうのです。そこで、これもルール化し「自分のペースで話す時間」と、「周囲に合わせて話を聞く時間」に区切ったり、興味がない話題のときに上手に断る方法をいくつかパターン化しておいたりすると良いでしょう。
3つ目に、急な予定やルールの変更が苦手な特性があります。急に予定を変更されると、変更した人に怒りや嫌悪感を覚えてしまったり、「赤信号は守る」などのルールを守っていない人に対して怒ったりします。しかし、これら全てに怒りを表していては日常生活を送れませんし、予定の変更や想定外のハプニングはどうしても起こるものです。
とくに、アスペルガー症候群の子どもは耳から入ってくる情報をうまく処理できないことがあります。そこで、予想されることを「トラブルシューティング」のようにリスト化し、視覚化するとわかりやすいでしょう。
そして、最も大切なことは、これらのコミュニケーションの難しさを本人も周囲もきちんと理解しておくことです。コミュニケーションは双方向で行うものですから、一方的に合わせすぎたり協力を求めすぎたりするのではなく、コミュニケーションスタイルを理解してもらうとともに一般的なコミュニケーション方法もある程度理解し、円滑なコミュニケーションを築いていきましょう。
おわりに:アスペルガー症候群の子どもは、コミュニケーションが独特である
アスペルガー症候群をはじめ、自閉症スペクトラムの子どもはコミュニケーションが苦手な特性がありますが、これは脳機能の障害によるもので、決してコミュニケーションが嫌いなわけでも、孤独を好むわけでもありません。
アスペルガー症候群の子どもは、コミュニケーション方法が少し独特であると言えます。本人も、そして周囲もそのことをしっかり理解しておくことが、お互いにコミュニケーションを取るための第一歩です。
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