近年、発達障がいの治療法として、情報技術を取り入れた「デジタル薬」の有効性が注目され始めています。「デジタル薬なんて初めて聞いた」という人も多いでしょうが、実は数年前から開発が進んでいる薬なのです。今回は、発達障がいの二次障害としてうつ病を併発した患者さん向けに、症状の改善効果が見込めるデジタル薬を紹介していきます。
発達障がいだと、うつ病を併発しやすい!?
ADHD(注意欠如・多動性障害)や、自閉症スペクトラム障害(ASD:従来の自閉症とアスペルガー症候群を統合した分類)などの発達障がいの患者さんは、対人関係の悩みなどで生きづらさを感じ、「二次障害」としてうつ病を併発してしまうケースが少なくありません。
発達障がいの人は、周囲と円滑なコミュニケーションがとれなかったり、うっかりミスが多かったりする傾向にあります。すると対人トラブルに発展したり、怒られることが増えたりして、結果的に自己肯定感の低下、意欲の低下、自責の念、抑うつといった精神症状が出やすくなります。これらが「発達障がいによる二次障害」と呼ばれるものです。
なお、発達障がいの患者さんが併発し得るうつ病には、下記の2種類があります。
- うつ病(大うつ病性障害)
- 生活上のストレスがきっかけとなり、抑うつ、物事への興味や関心の低下、睡眠障害、疲労感といった症状が現れます。
- 双極性障害(躁うつ病)
- 非常に元気が良くなり、何でもできると思いこむ「躁」の状態と、「抑うつ」の状態の両方が出現し、極端な気分の波が現れるタイプのうつ病です。
発達障がいや、うつ病・双極性障害に有効な「デジタル薬」って?
「デジタル薬」とは情報技術を導入した医薬品のことで、近年では発達障がいの新たな治療の選択肢として注目を集めています。
最近だと塩野義製薬が、アメリカのベンチャー企業・Akili Interactive社が開発したゲームアプリ型のデジタル薬(AKL-T01、AKL-T02)の販売権を取得しました。このデジタル薬はゲームを通じて脳を適度に刺激し、子供のADHD・ASD患者の注意力を改善する効果が見込めるとして、アメリカではFDA(アメリカ食品医薬品局)に承認申請が行われています。塩野義製薬も2019年内に国内で臨床試験を開始し、医療機器としての申請を目指す予定です。
しかし、デジタル薬が開発されたのは最近のことではありません。
大塚製薬とプロテウス・デジタル・ヘルス社(アメリカ)は、医薬品と医療機器を一体化した世界初のデジタル薬「エビリファイ マイサイト(Abilify MyCite®︎)」を共同開発し、2017年にFDAの承認を受けました。
大塚製薬のデジタル薬「エビリファイ マイサイト®(Abilify MyCite®︎)」とは?
「エビリファイ マイサイト」は、大塚製薬が販売する抗精神薬「エビリファイ®︎」に極小センサーを組み込み、薬とパッチ型シグナル検出器を組み合わせることで服薬状況を記録し、スマホやタブレット端末で確認できる服薬測定ツールです。薬を服用するとセンサーが胃の中でシグナルを発し、パッチがそれを検出する仕組みになっています。
「エビリファイ マイサイト」は、患者さんの服薬状況を客観的に把握できるため、より適切な治療を受けやすくなる面で評価されています。また、専用の「マイサイト アプリ」を使えば、患者さん自身が睡眠や気分の記録を入力することも可能です。この記録はスマホなどのモバイル端末に転送され、医療従事者や介護者とも共有できます。
「エビリファイ マイサイト(Abilify MyCite®︎)」は、うつ病や双極性障害の治療薬
「エビリファイ マイサイト」は、大人の統合失調症、双極性I型障害の躁病・混合型症状の急性期、大うつ病性障害の補助療法で使用されます。
特にADHD・ASDなどの発達障がいの特性で服薬を忘れることが多く、かつ二次障害としてうつ病や双極性障害を併発している患者さんにとっては、心強い治療薬の1つとなるでしょう。
おわりに:デジタル薬の実用化に期待を
近年ではデジタル薬の開発が活性化しており、承認や実用化を待つ薬が多く出てきています。発達障がいや二次障害としてのうつ病に悩む患者さんが、デジタル薬で症状を改善させたり、服薬忘れを防いだりする日も近いかもしれません。
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