発達障がいであるADHDやアスペルガーの人の特性の1つとして、「過集中」という状態があります。集中力は一般的に良いことと考えられていますが、ADHDやアスペルガーの人の「過集中」では、さまざまな困りごとが出てくる可能性があります。
反面、メリットもある「過集中」。いったいどんな症状で、どんな困りごとや対処法があるのでしょうか?
過集中ってどんなふうになることなの?
一般的に「集中力がある」というのは良いことだと捉えられ、勉強やスポーツ、趣味などでも重視される能力です。しかし、ADHDやアスペルガーの人に見られる「過集中」という状態は、集中があまりにも長時間・過度に続くため、心身に悪い影響が出てしまうのです。全てのADHD・アスペルガー症候群の人が過集中を起こすわけではありませんが、過集中が起こりやすい人では寝るのを忘れる、食べるのを忘れるなど、必要最低限の日常生活にも支障をきたすことがあります。
ADHD・アスペルガー症候群それぞれの特性と過集中の関係は、以下のようになっています。
- ADHDと過集中の関係
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- 興味や関心のあることには集中し、没頭する
- 集中しすぎてしまい、切り替えができない
- 衝動性が強いため、興味があることを我慢できない
- アスペルガー症候群と過集中の関係
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- 限定的なものごとへのこだわりや興味が強い
- いったん興味を持つと、過剰に集中しすぎる
- 熱中するあまり、周りが目に入らなくなってしまう
このように、ADHDとアスペルガー症候群では、過集中に至る特性にやや違いがあります。しかし、寝食を忘れて興味のあることに集中してしまうという点は変わりません。
過集中になるとどんな困りごとが起きる?
過集中が起こると、以下のような困りごとやトラブルが起こる可能性があります。
- 興味・関心のないことには取り組めなくなる
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- 興味・関心があることには集中できるが、逆に興味・関心がないと取り組めない
- 事務作業や期限があることにも、興味・関心がないと取り組まなくなる
- 反動で虚脱状態になる
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- 過集中状態が続くと、集中が切れたときに反動で虚脱状態に陥る
- 何に対しても集中できなくなり、やる気が失われたり寝込んでしまったりと、心身に影響が出てしまう
- 日常生活に支障をきたす
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- 寝食を忘れて没頭し、日常生活が送れなくなることも
- 体調に影響をきたすこともある
- 心身の健康を保てなくなる
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- 虚脱状態や日常生活に支障をきたすことが続くと、体調不良が慢性化する
- 栄養失調や慢性的な睡眠不足、情緒不安定など心身ともに不調が起こる
- 慢性的な睡眠不足から睡眠障害に進行すると、突然倒れたり重症化してしまうことも
- 過集中を邪魔されると感情的になる
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- 本人の興味・関心のあることに過集中となるため、やめさせられると感情的になることが多い
- 暴言を吐いたり、周囲のものに八つ当たりすることがある
- 依存性が高まりやすい
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- インターネットやゲームなどに過集中すると、依存性が高まりやすくなってしまう
過集中は、ADHDの場合もアスペルガーの場合も興味・関心のあることに対して起こるため、過集中に陥ることが多いと、逆に興味・関心のないことに取り組みづらくなることがあります。また、過集中によって寝食を忘れたり、過集中が解けたあとの虚脱状態を繰り返すと、心身ともに不調を引き起こすこともあります。
さらに、家族や周囲の人が心配して過集中を中断させようとしても、「邪魔された」と感じて感情的に怒鳴ったり、八つ当たりしたりしてしまうことがあります。もし、過集中の状態が心配で止めさせたいという場合、集中が途切れたときか、ある程度過集中が落ち着いたときに声をかけると良いでしょう。
メリットや対処法はあるの?
一般的に集中力があることは良いと言われているように、過集中も悪いことばかりではありません。また、過集中で困りごとが起こらないよう、前もって対策を立てておくこともできます。最後に、過集中のメリットと対処法についてご紹介します。
過集中のメリットとは?
過集中には、以下のようなメリットがあります。
- 高い集中力
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- 時間や周囲の環境に流されず、自分が集中したいことに没頭できる
- 雑音や話し声がうるさくても集中が途切れにくい
- 集中することに高い能力を発揮
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- 興味のあることに没頭するので、そのことに高い能力を発揮できる
- 人が3時間かかる作業を1時間で終わらせる、専門技術や知識を極める、など
- 周囲の評価が上がる
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- 集中して高い能力を発揮すると、周囲の評価が上がることがある
- 学校生活でも、成績が上がるなどいい方向に働くことも
- 専門性の高さが個性になる
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- 集中力や専門性はかけがえのない個性になることがある
- 周囲からも素晴らしい能力として受け入れられることも
過集中は、定型発達の人ではなかなかできないほどの高い集中力を発揮するため、周囲の環境や雑音、話し声などに惑わされることなく、自分がやりたいことに没頭できるというメリットがあります。集中すると高い能力を発揮できるので、人の何倍ものスピードで作業を終わらせたり、専門的な知識や技術を高めることができます。
すると、それはかけがえのない個性・専門性として自分の糧になり、周囲にも認められやすくなります。学生で興味が学校の勉強に向いた場合、成績が一気に上がり、先生や友達からの評価が高くなることもあります。
過集中の対処法とは?
いいこともある過集中ですが、心身を壊すほど集中し続けてしまうのはやはり良くありません。そこで、適度に過集中を中断できるよう、以下のような対策を立てると良いでしょう。
- スケジュールを立てる
- 時計を確認する癖をつける
- 身近な人に協力してもらう
過集中の人は、「疲れてきたな」「ご飯や寝る時間だな」と自分から気づくことができず、集中を止められないことが問題です。そのため、まずは集中する時間を決めておくなど、スケジュールを立ててみましょう。仕事や作業に没頭するための時間、作業を終わらせる時間、途中で休憩を入れる時間、などを細かく決め、アラームなどをかけておくのがおすすめです。
とはいえ、スケジュールにこだわりすぎて「スケジュールを決める」ことに過集中になってしまっては本末転倒ですから、スケジュールはある程度ざっくりとしたものにし、守れなかったことに落ち込みすぎない、スケジュールそのものを詰め込みすぎない、などのことに気をつけてましょう。
また、集中していると初めは難しいかもしれませんが、作業してからどのくらい経ったのかをふとした瞬間に確認する癖をつけていくと良いでしょう。時計を確認する癖がつくと、「あと○時間だけ頑張ろう」などという予定も自分で立てやすくなります。
もちろん、最初からすべて自分でやろうとしても上手くいかないかもしれません。そんなときは、身近な人に過集中を止めてもらうよう、相談してみましょう。最初からすべてを人任せにしてしまうのも良くないですが、一人で抱え込んでも解決しないこともあります。自分でも努力した上で、解決できない場合は素直に協力を求めましょう。
おわりに:過集中はメリット・デメリットの両面がある。体を壊さないよう注意
ADHDやアスペルガー症候群の「過集中」は、集中しすぎて寝食を忘れてしまったり、過集中を中断されると感情的になってしまうなどのデメリットもありますが、その類まれなる集中力によって高い能力や専門性を発揮することもできます。
そのため、デメリットである心身の不調につながらないよう、スケジュールを立てるなどして適度に休憩や中断しましょう。最初から一人で行うのが難しければ、周囲の人に協力してもらいましょう。
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