発達障がいの人は、その特性から疲れやすい人が多いです。特に一見「普通」に見えている人ほど神経をすり減らして生活しているため、仕事などでストレスがたまり非常に疲れやすいのです。
発達障がいの人が上手に休むためには、どのようなことに気をつけて過ごせば良いのでしょうか?疲れやすさの原因とともに、心と体をリフレッシュさせるコツについてご紹介します。
発達障がいの人が疲れやすい原因や特性って?
発達障がいの人が疲れやすい原因は、その特性にあります。大まかに分類すると、以下の6つが疲れやすさの原因となりやすいです。
- 定型発達の人と比べ、感覚が過敏である
- 活動量が人よりも多い
- 睡眠がコントロールできにくい
- 度が過ぎた完璧主義である
- 周囲に合わせようとするあまり、神経をすり減らしてしまう
- 自分の疲れに気づけない
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
【1】感覚が敏感過ぎる
発達障がいの人の中には、定型発達の人ではあまり気にならないような音や光に敏感な人がいます。こうした人は例えば空調のブーンというごく小さな音や、秒針のカチコチという音が気になったり、蛍光灯の光やパソコン画面を非常に眩しがったりすることがあります。これらは一般的にオフィスにはあるものですから、普通のオフィスの環境そのものが集中しにくい、疲れやすい状況になってしまうのです。
こうした感覚過敏は音や光だけでなく、香りや肌触りなど、苦手と感じるものには個人差があります。例えば、他にもそれほどきつい香りではないのに同僚がつけている香水の香りが非常に気になってしまう、といった場合だと対人関係やコミュニケーションの問題も含めて対処が難しくなることもあるのです。
この場合の対処法は2つあり、「発達障がいを持っている本人が働きやすい環境を自分で整備する」「周囲の環境を会社側が整える」のどちらかです。本人が整備する方法としては、音に敏感な人であればノイズキャンセリング機能つきのイヤホンをつける、光が眩しければサングラスをかける、匂いが気になるならマスクをする、といったやり方です。
もちろん、周囲の人が誰もしていないのに突然イヤホンをつけてしまうと、反抗的な態度と取られかねませんので、こうした対処を取る際には必ず上司などにきちんと状況を話し、理解してもらうことが必要です。定期的に医師に診察を受けている人ならば、診断書を書いてもらうのも良いでしょう。
発達障がいを持っている本人からこうした申し出があった場合、周囲の人はそのつらさ、疲れやすさなどをきちんと理解し、本人が工夫した上できちんと働こうとしていることを認め、職場全体でフォローしていける体制を築いてゆけるとより理想的です。
周囲の環境を会社側が整える場合、本人のデスクを一番静かな場所に配置したり、パーテーションで区切ったりする方法が考えられます。とはいえ、この方法はまだまだ「特別扱い」のように見えてしまい、ポピュラーな方法ではないかもしれません。しかし、今後発達障がいに関して世間の認識が広まれば、こうした「合理的配慮」はどんどん増えてくることでしょう。
感覚の特異さは全ての発達障がいの人にあるわけではありませんが、その割合は多いです。かつ、就業の困難に直結しやすい特性ですので、こうした感覚過敏に関する配慮は多くの企業で必要だと思われます。感覚過敏に対する配慮が広まれば、発達障がいの人のみならず、定型発達の人でも感覚が人よりも敏感な人でも働きやすい環境にすることができるはずです。
【2】人よりも活発に活動している
活発な活動は、発達障がいの中でもADHD(注意欠陥・多動性障がい)の人で多く見られます。子どもの頃は周囲もたいてい活発なので目立ちにくいのですが、ADHDの人は大人になってもエネルギッシュで活動的な人が多く、純粋に活動量が多いために他の人よりも疲れやすくなってしまいます。
さらに、大人のADHDの場合、行動そのものは成長の過程で周囲に合わせて落ち着かせることができても、頭の中が多動状態であることもよくあります。思考が常に目まぐるしく変化していたり、次から次へと考えが浮かんでしまい、見た目にはほとんどわからないですが本人は集中しようとして必死なため、疲れすぎてしまうという状態です。
注意が散漫になりやすい、衝動性が強いという人はそれらのコントロールに非常にエネルギーを使うため、これも疲れやすさの原因になります。
こうした場合は、1日のスケジュールの中にあらかじめ休憩時間を組み込んでおき、意識的に活動しない、できるだけ考え事をしない時間を作ると良いでしょう。発達障がいの特性として「適切なタイミングで適度に休憩することができない」という人も多いので、スケジュールとして強制的に自分に休憩を命じるのは効果的です。
【3】睡眠をコントロールしづらい
発達障がいを抱える人は、同時に睡眠に関する問題も抱えている場合が多いです。これは、発達障がいの特性である感覚過敏や、脳機能としてのセロトニン不足など、発達障がいとそれに伴う身体機能などに睡眠を阻害する要素が多いことが原因と考えられます。また、こうした寝つきや不眠の問題だけでなく、人によっては過眠の症状が出ることもあります。
寝る時間は平均的でも眠るタイミングがずれてしまったり、夜に眠れない分昼間に眠くなってしまったり、朝なかなか起きられないなどの症状が出ることがあります。このように睡眠のサイクルがうまく回らないと、心身ともに疲れやすくなってしまいます。
対策としては、夜にきちんと眠れる環境を整えることが第一です。外からの眩しい光が気になる場合は遮光カーテンなどで遮る、音が苦手な場合はイヤホンなどをつける、少しだけ音があった方が良いならアプリなどでリラックスできる音楽を流す、などです。また、対策を立てても日中どうしても眠くなってしまう場合は、職場で事情を話して小休憩を取るのも良いでしょう。
しかし、睡眠の問題が生活に著しく影響し、就業が困難になるような場合は、医師の診察を受けることも必要です。発達障がいだけの問題ではなく、睡眠障がいという二次障がいを発症していることもあり、睡眠をコントロールするために自分一人の力ではどうしようもないこともあるからです。
【4】度が過ぎた完璧主義になりやすい
これは特に自閉症スペクトラム(ASD)の人で起こりやすく、「適当なところで終わらせる」ということができず、常に完璧を求めすぎて疲れてしまうというものです。この「完璧」は周囲の求める完璧であることもありますが、基本的には自分の基準で決めた完璧であり、そのために異様に高い水準を保とうとしすぎて疲れてしまうのです。
良く言えば仕事で妥協しないとも言えますが、そのために自分を追い込みすぎてしまったり、頑張りすぎて疲れがたまってしまうため、決して良いことばかりではありません。
こうした場合は、決まった時間ごとにどこまでできたかを上司に報告したり、初めの指示の際に具体的に「ここまでできればゴール」という目標を設定しておいてもらったりすると良いでしょう。このような人は自分自身で「適当」を設定することが苦手なため、一定の水準に達したところで周囲からOKを出してあげる方がやりやすいです。
【5】周囲に合わせることに神経をすり減らす
これも自閉症スペクトラムの人で多く見られる現象で、定型発達の人では何気なくこなせる「雑談」「空気を読む」「暗黙のルール」などを理解し、そのように振る舞うことが得意ではないため、一見「普通」に見えている場合、特に頭や心・体の全てをフル回転させて対応していることが多いのです。
例えば、一般的には雑談はリラックスするために行うものですが、自閉症スペクトラムの人にとってはその場の空気やルール、相手の顔色を伺いながら参加しなくてはならないため、大きなストレスを感じる場になってしまう、というような場合です。このように、発達障がいの人は環境に適応するだけで多大なエネルギーを使っていることも多いです。
こうした場合は、まず自分の特性となるべく合うような職場を選ぶこと、可能な範囲で特性に配慮してもらい、ある程度周囲の環境を調整してもらうと良いでしょう。例えば、お昼休みは一人で静かに取れるような場所を用意してもらうなどすると、午前中に張り詰めていた神経を少し緩めることができ、午後からの仕事に備えられるでしょう。
【6】疲れていることに気づけず、休息の取り方が上手くない
発達障がいの人は、そもそも自分の状態を把握するのが苦手な人が多いです。「自分はお腹がすいている」「こういう出来事があって、今悲しい気持ちになっている」といったように、自分の状態を察知したり、内面を客観的に分析したり、ということがなかなかできません。そのため、自分の疲れにも気づきにくい人が多いのです。
さらに、目の前のことに対して過度に集中してしまう(過集中)という状態になってしまう人もいます。一度集中のスイッチが入ってしまうと、寝食を忘れて物事に集中してしまうという状態です。集中力が高いことは一般的に良いことですが、自分の体の疲れにも気づかないまま限度を超えて集中し続けてしまうと体の不調につながってしまうことがあります。
人によっては周囲の音が耳に入らないほど集中してしまうこともあり、集中が途切れた瞬間にどっと疲れが襲ってきて急激に体調を崩したり、疲労で動けなくなったりします。このような場合は、過度な集中状態になる前、そうした作業に入る前にあらかじめタイマーをかけておき、定期的に、強制的に休憩を取るようにするのが効果的です。
疲れをためこまないためにできることはある?
疲れは、学業だけでなく仕事にとって大敵です。疲労が溜まった状態では仕事でミスを犯しやすくなるだけでなく、居眠りなどをして怠惰な人だと評価が下がってしまうこともあります。特に、発達障がいの人は対人コミュニケーションが苦手な人が多いため、評価が下がり始めるとそれを回復するのが難しくなり、著しい場合は職場に居づらくなってしまうことも考えられます。
そこで、こうした取り返しのつかない状態になる前にできる、3つの対策をご紹介します。
生活のリズムを整える
発達障がいの人は、休息を取るのが苦手なことに加え、睡眠のコントロールがしづらいという性質を持っている人が多いです。そのため、まずは休日にしっかり休む、毎日決まった時間に就寝し、決まった時間に起床するといったように睡眠時間をしっかり確保する、という生活リズムの基盤を整えることが大切です。
アウトドア派の人で、休日はすぐにどこかに出かけてしまうという人は、例えば週に2日休日がある場合、どちらかの日は必ず休むなど、自分でルールを作りましょう。また、寝ようとしても眠れないなどの睡眠に関する悩みを抱えている人は、一般的な「規則正しい食事」「しっかり朝日を浴びる」「入浴は湯船まで、睡眠の2〜3時間前にする」などの対策を行っても治らない場合、医師に相談してみましょう。
職場で適度に休憩を取る
「過集中」や「疲れに気づきにくい」ということも発達障がいの人の疲れやすさには重要な問題です。このような人は自分で「疲れてきたからちょっと休憩しよう」といったように適切な休憩時間を取れないため、タイマーをかけたり「○時になったら5分休憩をする」など、スケジュールとして休憩時間を設定したりするのがおすすめです。
休憩時間にはストレッチや深呼吸など、意識的に体を休め、リフレッシュできるように努めましょう。周囲の目を気にするあまり、休憩に罪悪感を感じてしまう人もいるのですが、適切に休憩を取り、パフォーマンスを低下させないようにするのも仕事のうちです。これも仕事なんだと割り切り、自分なりに休憩を取りやすい工夫をしてみましょう。
会社に相談する
自分でできる対策は一通りやってみたけれど、それでもどうしても疲労感が抜けないという場合は思い切って会社に相談してみることも必要です。会社には障がい者を雇用するにあたり、「合理的配慮」をすることが義務づけられています。ですから、遠慮しすぎず、きちんと自分の状況を伝え、適切な休憩時間や作業量、作業内容を設定してもらいましょう。
また、緊張感や不安感を取り除くため、定期的に面談や声かけをお願いするのも効果的です。会社に話すことで安心感を得ることができれば、張り詰めている神経をリラックスさせることができ、したがって疲労感の軽減につながります。
おわりに:発達障がいの人が疲れやすいのは仕方ないこと。意識的に休憩を取ろう
発達障がいの人が疲れやすいのはその人の努力不足ではなく、特性上仕方のないことなのです。また、逆に仕事や趣味を頑張りすぎて過集中で疲れてしまうという人もいます。ですから、意識的に、スケジュールとして休憩をしっかり取るようにしましょう。
また、睡眠不足やリズムの崩れで眠れず疲れやすい、または過眠になるという人は一度医師に相談してみるのも良いでしょう。適切なアドバイスをもらって生活を改善することも必要です。
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