オキシトシンが自閉症の治療に役立つって本当なの?

オキシトシンというホルモンはもともと、出産や子育てに関係しているホルモンとして長く知られていました。しかし、最近ではその他にも私たちの心や体にさまざまな良い効果をもたらしてくれることがわかってきました。

そんなオキシトシンが、自閉症の治療にも役立つのではないかと言われています。これは本当なのでしょうか?実際に行われた研究や、その有効性についてご紹介します。

オキシトシンってどんなホルモン?

オキシトシンは、もともと出産や子育てに関わるホルモンとして知られてきました。これは、オキシトシンに以下の作用があることによります。

  • 出産の際に子宮を収縮させる働きがあり、陣痛を促して出産を助ける
  • 授乳の際に乳腺を刺激し、母乳を出すように作用する

赤ちゃんが授乳中に乳首を吸うことで、さらにオキシトシンが分泌されることがわかっています。すると、分泌されたオキシトシンが乳腺を刺激し、母乳を継続して出せるようになるのです。ですから、逆に最初はあまり母乳の出が良くなかったという人でも、赤ちゃんに乳首を吸わせているうちに十分な量の母乳が出るようになることもあります。

このように、オキシトシンは赤ちゃんとお母さんの関わりの中で分泌されるホルモンとして良く知られていましたが、最近では男女の愛情にも関わっていることがわかってきています。例えば、性行為の際に子宮頚部を刺激することでオキシトシンの分泌が起きますので、これによって親密感を増す効果があると言われているのです。

その他にも、以下のような作用があると考えられています。

  • 幸福感、満足感が増す
  • 脳や心が癒され、ストレスが緩和される
  • 不安や恐怖心が減る
  • 他者への信頼感が増す
  • 社交的になり、人と関わるのが好きになる
  • 学習の意欲や記憶力が向上する
  • 心臓の機能を高める
  • 免疫力を高める

オキシトシンは精神的な幸福感や安定に作用し、不安や恐怖などの感情を減らしてくれます。そのため、最近では「幸せホルモン」「癒しホルモン」などの名前で呼ばれることもあるのです。オキシトシンは仲の良い相手とのスキンシップによって分泌されることがわかっていますが、それ以外にもペットと触れ合う、本や漫画、映画などで感動するなども効果的だとされています。

また、出産や子育てに関わるホルモンであると長い間知られていたせいか、女性だけのホルモンと誤解されることもありますが、男性でもオキシトシンは分泌されます。男性の場合は、スキンシップの他に共同作業、人との関わりなどの中で分泌されることがわかっています。

ただし、スキンシップに関しては「仲の良い相手」という部分が重要で、好意的な感情を持っていない相手とスキンシップをしてもオキシトシンが上がらないばかりか、減ることもあると報告されていますので、スキンシップをする相手には注意しましょう。

オキシトシンは自閉症に効くの?

自閉症(自閉症スペクトラム障がい)は、脳機能の障がいにより「社会性の障がい」「言語コミュニケーションの障がい」「想像力の障がい」の「3つ組の障がい」という症状が出やすいとされています。オキシトシンは他者への信頼感が増し、社交的になり人と親密な関係を築きやすくなるホルモンとされていることから、これら自閉症の対人関係にまつわる症状も軽減できるのではないかと考えられました。

実際に、ヨーロッパではオキシトシンを鼻から吸収する「経鼻スプレー製剤(経鼻剤)」が開発・認可されていて、健常な成人男性に使用すると「他者と信頼関係を結びやすくなる」「表情から感情を読み取りやすくなる」などの効果があることがわかっています。鼻から吸引するのは、内側前頭前野と呼ばれる他者の感情の理解などを司る脳の部位が活性化するからです。

そこで、浜松医科大学医学部の山末英典教授らが研究したところによると、「オキシトシン経鼻剤」で対人コミュニケーション障がいが改善されること、さらに自閉症スペクトラムの中心的な症状が改善されることがそれぞれ2013年、2015年に報告されています。

また、東京大学医学部の研究チームの報告では、18〜55歳の男性自閉症スペクトラム者18人のうち、9人にオキシトシンを6週間投与したところ、残りの投与しなかった対象者と比べてわずかではありますが「3つ組の障がい」に関する行動が改善したと報告されています。

しかし一方で、オーストラリア・シドニー大学の研究チームが12〜18歳の男児自閉症スペクトラム者50人のうち、26人にオキシトシンを8週間投与したところ、残りの24人と比較しても「3つ組の障がい」のいずれも改善されなかったという報告もあります。

このように、オキシトシンと自閉症に関する研究は、現状、実験方法や対象人数、評価の方法などがばらついていて、有効であると言えるほどの明確な効果があるかどうかの立証には至っていません。また、オキシトシンが鼻からどのような経路で脳に入り、脳を活性化させるのかは判明しておらず、したがってどのくらいの量を、どのくらいの期間で投与すれば良いのかもはっきりしていません。

オキシトシンの効果には個人差もあることや、研究において「行動が改善された」と判断する基準がまだまだ個々の研究者の主観に頼るところが大きいこと、さらに、これらの研究が実生活の中ではなく、あくまでも臨床試験という環境下で行われたことなどから、絶対に効果があるとは言いきれないことに注意する必要があります。

しかし、一部で改善効果が見られていることから、今後の研究によってはオキシトシンが自閉症の改善に役立つという確かな研究結果が出てくる可能性ももちろんあります。オキシトシンが脳内でどのように働くのかという作用機序の解明や適切な投与期間・量の解明も含め、さらなる研究が待たれます。

自閉症にオキシトシンを使っても大丈夫?

オキシトシンの経鼻薬は、前章でもご紹介したとおり、欧州では既に授乳促進などの目的で認可されている薬です。しかし、日本では授乳促進の目的であってもまだ認可されていません。つまり、日本人の体に対して有効なのかどうか、さらに安全であると言えるかどうか、そうしたことは現在、研究の途中なのです。

また、自閉症スペクトラムの症状を改善できるかどうかに関してはまだ欧州でも検討中の段階です。そして、前章でも触れたように残念ながら2019年初頭の段階では、オキシトシンが自閉症スペクトラムの症状に対して決定的に有効であるとする研究結果は出ていません。そのため、大丈夫かどうかまだわからない、というのが現時点での結論です。

しかし、だからといって個人で輸入して欧州の薬剤を使うなどは絶対にやめましょう。十分な効果が得られないだけでなく、思いがけない副作用が発現する危険性があります。未認可の薬剤を使って万が一重篤な副作用が出たとしても、認可済みの薬剤を使った時のように保証や救済措置は受けられません。

おわりに:オキシトシンは自閉症の改善に役立つ可能性がある

オキシトシンは、いくつかの研究結果によれば自閉症スペクトラムの中心的な症状(3つ組の障がい)に対して効果があると報告されています。しかしまた、効果は特に得られなかったとする報告もあり、実験結果や人数、評価基準などのばらつきもあり、確実に効果があるとは言い切れません。

そのため、今後のさらなる研究が待たれます。待ち遠しいですが、決してリスクの高い個人輸入などはせず、研究の成果を待ちましょう。

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