愛着障がいで起こりがちな困りごととは?

人間は生まれてからずっと、家庭環境や周囲の人間関係などに影響を受け、また自らも影響しながら心身ともに成長していきます。中でも乳幼児期に養育者との間で適切な関係を築けないと「愛着障がい」という状態に陥ることがあります。

愛着障がいは子どもについての研究が多いですが、大人で自分は愛着障がいかもと思う人も一定数います。そこで、愛着障がいの特徴や困りごと、その対処法について見ていきましょう。

愛着障がいって発達障がいと違うの?

「愛着障がい」とは、主な養育者との間で適切な愛着関係が作られなかったことから生じる障がいの総称として使われる心理学用語です。しかし、医学・心理学のいずれにおいてもさまざまな定義や考え方があり、用語の使い方がはっきりと正確に決まっていないのが現状です。

そもそも「愛着(=アタッチメント)」という概念はイギリスの精神科医ボウルビィによって提唱されたもので、「特定の人に対する情緒的なきずな」という意味です。例えば、乳幼児の場合は特定の養育者によって繰り返し世話をされることで、一対一で互いに情緒的に結ばれます。赤ちゃんが「お腹が空いた」「オムツが濡れて気持ち悪い」などの理由で泣くと、親など日常的に世話をしてくれる特定の大人が世話をしてくれ、不快感が取り除かれるというものです。

このように、生理的な欲求を訴えては満たされるという繰り返しによって、世話をしてくれる特定の人との信頼関係やきずなが生まれます。これが他者とのコミュニケーションの第一歩となり、この愛着関係が基盤となって自立心、人間関係や社会性の発達につながります。こうした流れが心理学における「愛着理論」となっています。

愛着理論では、愛着(アタッチメント)は人間が生まれながらにして備えているものではなく、成長の家庭で周囲の人との関わりを通じて獲得していくものだとされます。ですから、とくに幼少期に不適切な環境や関わりなどによってうまく愛着関係が形成できないと、その後の人間関係や社会性の発達に困難が生じる場合がある、というのが愛着理論による愛着障がいの考え方です。

愛着障がいは、現状子どもについて研究が進められており、成人を対象にした研究はまだ少ないため、十分なエビデンスもありません。しかし、対人関係や社会性に何かしらの困難が生じている大人の中には、その原因が愛着関係の形成にある人も少なくないのではないか、と考えられています。

そのため、情緒的なつながりをうまく結べず、人とバランスの良い関係性が作れなかったり、心がやたらと不安定になったり、ストレスが身体の症状として出やすかったり、というような社会性や対人関係に困難が生じている状態のうち、その原因が過去の不適切な親子関係や養育、すなわち不適切な愛着関係にあると考えられるものを「大人の愛着障がい」と呼ぶケースがあります。

愛着障がいの医学的な定義ってどんなもの?

初めに心理学における愛着障がいの定義をご紹介しましたが、医学的な「愛着障がい」の定義はかなり限定的なものです。基本的にはアメリカ精神医学会の診断基準「DSM-5」に記されている、子どもに起きる「反応性愛着障害(反応性アタッチメント障害)」「脱抑制性対人交流障害」の2つが診断名となっています。

いずれの場合も「ネグレクトや、主な養育者が頻繁に交代することがあったか」「愛着関係の形成が極端に制限される環境だったか」など、養育が極端に不適切だったかどうか、さまざまな養育形式を経験しているかどうかが診断基準となっています。そのため、この定義と診断基準に当てはまり、医療機関で実際に診断を受ける大人はごくまれです。また、一般的に愛着が形成される9ヶ月ごろより前には診断されません。

医学的な2つの愛着障がいは、それぞれ具体的に以下のような特徴があります。

反応性愛着障害(反応性アタッチメント障害)
  • 人に頼ることが苦手で、つらいことがあっても周囲の大人にうまく頼れない
  • 苦痛を感じても、(養育者からの)安心・支え・愛情・保護を求めるための行動をしない
  • 苦痛を感じたとき、養育者が安心させようと努力しても、最小限にしか反応しない
脱抑制性対人交流障害
  • 初対面の人にも人見知りせずべったり抱きつくなど、過剰な馴れ馴れしさを示す
  • 育ってきた文化にそぐわないほど、不適切で過剰な馴れ馴れしい言動をする

反応性愛着障害では、養育者との日常的な交流において、嬉しい・楽しいなどのプラスの感情を表しにくいか全く表さなくなります。しかし、この症状は自閉症スペクトラムを持つ子どもでも見られる症状であることから、ネグレクトや不適切な養育環境があったかどうかなど、自閉症スペクトラムとは慎重に鑑別しなくてはなりません。

脱抑制性対人交流障害では、反応性愛着障害とは逆に、人との距離が異常に近すぎる、初対面から過剰に馴れ馴れしすぎるなどの言動に出ることがあります。これらの症状はADHD(注意欠陥・多動性障害)と間違われやすいことから、やはり愛着形成の段階で不適切な養育環境を経験しているかどうかなどを含め、慎重な鑑別が必要です。

発達障がいと愛着障がいの違いって?

上記のように、発達障がいのうち自閉症スペクトラムやADHDは、愛着障がいと度々似たような症状を見せることがあります。しかし、発達障がいと愛着障がいは全く異なったもので、発達障がいは生まれつきの脳機能の障害によって起こるため、育て方や家庭環境は関係ありませんが、愛着障がいは生まれた後に不適切な養育を受けることで起こります。

例えば、発達障がいのうち「自閉症スペクトラム」のは生まれつき人と関わることが苦手だったり、言葉が遅れてしまったりと「反応性愛着障害」と似たような症状(特性)を表します。しかし、発達障がいの場合は養育環境とは関係がないため、どんなに愛情を持って接し、言葉をたくさんかけたとしても発達障がいそのものがなくなりはしません。

ただし、発達障がいの子どもを育てにくいと感じ、「どうしてみんなと同じようにできないの!」と強く叱責しすぎたり、しつけを厳しくしすぎたり、最悪の場合は虐待に発展してしまうと、結果的に愛着障がいにも陥る可能性があります。すると、発達障がいに加えて愛着障がいにも陥ることになり、定型発達で正しい愛着関係を築けた子どもに比べて非常に大きな生きづらさを抱えてしまいます。

愛着障がいの人の特徴や困りごとって?

愛着障がいのある人は、行動や言動に特徴的なパターンが現れることがあります。過剰になると、それが対人関係において衝突や摩擦を生む「困りごと」となってしまうかもしれません。まずは、子どもの愛着障がいに見られる特徴から見ていきましょう。

  • 理由もなく怯えたり、落ち込んだり、イライラしたりする
  • よく眠れなかったり、食欲がなかったりする
  • 体重が軽い、身長が小さいなど、身体が平均よりも小さい
  • 風邪をひきやすい、胃腸が弱いなど体調を崩しがち
  • 自傷行為(頭を壁に打ちつける、身体をかきむしる、髪を抜く、爪をかじるなど)
  • ものや人を叩いたり噛んだりする
  • わざと悪いことをしたり痛みを大げさにアピールしたりなど、大人を試すような行動に出る
  • 嘘をつく、謝れない
  • 自己評価が低い(挑戦したがらない、失敗するとパニックに陥る、どうせ自分なんて、などと言う)

反応性愛着障害の子どもは人との関わりを極端に避け、脱抑制性対人交流障害の子どもは誰彼構わず関わっていこうとするというように、愛着障がいの子どもは対人関係がどちらかの極端になる傾向にあります。相手が望んでいる距離感を図ったり、人に合わせてちょうどいい距離感で接したりということができないのです。

また、発達障がいのある子どもと似たような言動をすることがあります。言葉が出ない、常同行動をする、落ち着きがない、片付けられない、危険な行動を平気でする、ものに異常に執着する、季節感に合わない服を着たがるなどがそれに当たります。一方で、愛着形成に問題を抱えたまま大人になった人には、以下のような特徴が現れやすいとされています。

  • 安定した人間関係を築くのが難しく、仕事やプライベートでトラブルを抱えやすい
  • 精神疾患を発症しやすく、発症すると重くなったり長引いたりしやすい
  • 感情のコントロールが難しい
  • 自分を肯定的に見られない
  • 「全か無か」の極端な思考に陥りやすく、「60%ぐらいで」といった調整がしにくい
  • 微熱や胃腸の症状が続く、疲れやすいなど自律神経系がアンバランスになりやすい
  • 空腹など、自分の生理的欲求がわかりにくい
  • 発達障がいと似た症状が見られることもある

自分が「愛着障がいかも…」と思ったときの対処法は?

では、大人になってから自分の愛着形成には課題があったかもしれない、愛着障がいの傾向があるかもしれない、と気づいたとき、自分でできる対処法はあるのでしょうか。3つのポイントから見ていきましょう。

課題や困りごとに直面したらどうする?

生きていく上で、何らかの課題や困りごとに直面することは多いでしょうが、それぞれの課題や困りごとの背景・要因はさまざまです。「どんなとき、どんなことで困ったのか、あるいは壁にぶつかったのか」「その背景や要因として、どんなことやどんな気持ちがあるのか」ということをときにはじっくり振り返り、考えてみると課題が整理されて明確になります。

精神的な問題に有効な「安全基地」って?

もし、不安な気持ちや満たされない気持ちなど、精神面での問題が顕著な場合は、心理的な「安全基地」を作りましょう。安全基地とは、いざというときに頼れたり居場所になったりするところのことで、具体的な場所でなくても構いません。家族や友人などの気のおけない人間関係であったり、本やインターネット・趣味などの落ち着けるものであったり、人によってその安全基地はさまざまです。

もちろん、安全基地は1つでなくても構いません。むしろ、落ち着ける趣味や本をたくさん作ったり、安心できる人間関係をたくさん構築したりすることは、自分の居心地の良い場所や関係を増やし、精神的な面でも対人関係の面でも安定につながります。自分がどんなところやものに安心できるか、どんな人なら頼れるのかをよく考え、探してみましょう。

コミュニケーションの課題にはどう対処する?

コミュニケーションや人間関係における困りごとも、課題を整理して具体化してみましょう。「適切な距離感で接することができない」「どうやってコミュニケーションをとったらいいかわからない」「コミュニケーションをとっても満たされない」など、どんな困りごとや悩みごとがあるのか考え、その問題点を具体的にしていきましょう。そして、その背景や要因にどんなことががあるのかを考え、コミュニケーションがスムーズに行えるよう試行錯誤していきます。

一方で、コミュニケーションだけに気を使いすぎると精神的に疲れきってしまい、余計に苦手意識や拒絶感を持ってしまうこともあります。コミュニケーションはお互い様、とある程度は割り切ってしまう方が他人との間に適度な距離感が生まれ、かえって上手くいくということも考えられます。付き合いがつらいときには距離を置いたり、うまく話せないときには聞き役に徹したりするのも良いでしょう。

おわりに:愛着障がいは、大人の課題や困りごとにつながることも

愛着障がいとは、乳幼児期や幼少期に養育者と適切な愛着関係を形成できなかったことで、対人関係や社会性に問題が出たり、ストレス処理がうまくできなかったりする状態のことです。医学的には反応性愛着障害と脱抑制性対人交流障害に診断されます。

大人が愛着障がいと診断されることはまれですが、子どものころの愛着障がいに起因した課題を抱える大人も少なくありません。ご紹介した対処法などで、上手にクリアしていきましょう。

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