ADHD(注意欠如・多動性障害)やアスペルガー症候群などの発達障がいの治療は、薬物療法や認知行動療法等が一般的です。しかし近年、ゲームを通じて治療をする「デジタル薬」の効果が期待を集めています。この「デジタル薬」とは、どんな治療薬なのでしょうか?
発達障がいの新たな治療法、「デジタル薬」って?
デジタル薬とは、情報技術を導入した医薬品のことです。近年では、錠剤のセンサーと体につけた機器を連動させることで、薬の飲み忘れを防止するデジタル薬が実用されています。
ADHDなどの発達障がいは、専用の錠剤を服用する薬物療法等で治療が進められますが、現在販売されている薬を服用するだけで、症状が全て改善するわけではありません。認知行動療法や認知行動量、対人技能訓練などの様々なアプローチが必要になります。
そこで発達障がいの治療ツールとして、アメリカのベンチャー企業が開発したのが、スマホやタブレット端末のゲームを使ったアプリ型のデジタル薬です。日本では塩野義製薬が販売権を取得し、今後販売に向けて臨床試験などを進めています。
塩野義製薬は現在、子供のADHD患者向けの治療アプリ「AKL-T01」と、子供の自閉症スペクトラム障害(ASD:従来の自閉症とアスペルガー症候群を統合した分類)患者向けの治療アプリ「AKL-T02」の本格的な導入を計画しています。
デジタル薬のゲームアプリでADHDが改善する?
子供のADHD患者用のデジタル薬(AKL-T01)は、「障害物を回避する操作」と「特定の対象物に反応する操作」という2つの異なる課題に取り組むゲームアプリです。画面上のアイコンをタップしたり、いかだに乗りながら障害物を避けたりといったゲームが導入予定となっています。
ADHDの患者さんは脳の大脳皮質の機能障害があると考えられているため、指先のタップ操作や障害物の回避などのゲームで脳に適度な刺激を与え続けることで、注意力の向上が期待されます。
アメリカではすでに8~12歳のADHD患者を対象に臨床試験が実施され、注意力の改善などの結果が得られたことから、FDA(アメリカ食品医薬品局)に承認申請が行われています。
なお、塩野義製薬も2019年内に日本国内で臨床試験を開始し、保険適用される医療機器としての申請を目指す予定です。
デジタル薬で自閉症スペクトラム障害も改善する?
自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ子供は視覚認知が強いため、目から入った大量の情報を処理する過程で、不注意が見られる(特定の話を全然聞いていないなど)ことがあります。
こうした不注意症状が深刻な子供のASD患者向けの、デジタル薬(AKL-T02)も開発中です。小規模な臨床試験では、子供のASD患者の不注意症状や行動症状に一定の改善が見られたという結果が得られています。現在、大規模な臨床試験を計画中です。
発達障がいの「デジタル薬」はいつ日本で導入される?
発達障がいの治療用デジタル薬は、いつアプリとして販売されるか、またいくら料金がかかるかについては未定です。現在塩野義製薬は販売に向けて、臨床試験などの手続きを進めている段階になります。
なお、アプリストアにリリースされたとしても、誰でも利用できるわけではありません。ゲームアプリでも医療機器に該当するため、発達障がいと医師から診断された患者さんが、医師から指導を受けて利用することになる見通しです。
おわりに:ゲームを通じて、発達障がいを治療する日が来る!?
ゲームアプリを通じて、注意力等の改善効果が見込めるとされる「デジタル薬」。まだ日本では臨床試験の段階であり、商品化には時間がかかりそうですが、「楽しみながらできる、発達障がいの新しい治療法」として脚光を浴びる日も近いかもしれません。
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