アスペルガー症候群とは、「対人関係の障害」「パターン化した興味や活動」に特徴があるものの、知的障害や言語障害を伴わないという、自閉症スペクトラム障害の1つです。発達障害の1つですから、性格の問題ではなく脳機能の障害と考えられています。
脳機能の障害なら、アスペルガー症候群は親から子へと遺伝するのでしょうか。今回は、アスペルガー症候群の遺伝や原因についてご紹介します。
アスペルガーは遺伝するの?
アスペルガー症候群は、アメリカ精神医学会による最新の診断基準(DSM-5)では、従来から言われていた自閉症などとともに「自閉症スペクトラム障害」という大きなくくりに含まれることになりました。この自閉症スペクトラム障害ですが、結論から言うと、遺伝するかどうかの決定的な証拠は出ていません。
しかし、自閉症スペクトラム障害に関する双生児研究において、「一卵性双生児の自閉症スペクトラム障害の一致率は約50〜80%、二卵性双生児の自閉症スペクトラム障害の一致率は約30〜40%である」という結果が報告されています。つまり、二卵性双生児よりも一卵性双生児の方が、双子のどちらかが自閉症スペクトラム障害だったとき、もう片方も自閉症スペクトラム障害である確率が高かった、ということです。
この研究結果からは、遺伝子が近いほど自閉症スペクトラム障害を発現しやすい、ということが示唆されます。そのため、遺伝子が何らかの形で自閉症スペクトラム障害の発現に関わっているのではないかと考えられています。しかし一方で、遺伝的要因だけが原因ならば、一卵性双生児の一致率は限りなく100%に近づくはずですが、高くても80%という一致率は、遺伝的要因以外にも何らかの要因(環境要因など)が関係していると言えそうです。
ですから、自閉症スペクトラム障害が両親からの遺伝である可能性は高いものの、それだけで自閉症スペクトラム障害を発現するわけではなく、さまざまな環境要因が重なって脳機能に障害が現れると考えられます。両親のどちらも自閉症スペクトラム障害だったとしても、子どもが自閉症スペクトラム障害を発症しない可能性も十分にあるわけです。
どんな遺伝子がアスペルガーと関係しているの?
アスペルガー症候群(自閉症スペクトラム障害)と関連している遺伝子として最も中心的なものと考えられているのが、「シナプス(神経細胞の構造)の形成」と「シナプスの機能」に関わるタンパク質を作るために必要な情報に関する遺伝子です。
例えば、シナプスの形成に関わる遺伝子「NLGN3」や「NLGN4」、またそれらと機能的に関わりが深い「SHANK3」などが自閉症スペクトラム障害と関連しているのではないかと指摘されています。つまり、シナプスでの神経伝達に何らかの細かい異常があり、自閉症スペクトラム障害で見られる精神的な発達の障害が起こっていると考えられています。
他にも、自閉症スペクトラム障害に関してはさまざまな関連遺伝子が数十件報告されています。とはいえ、さまざまな遺伝子が複雑に関わっていること、先ほどご紹介したように環境的な要因も自閉症スペクトラム障害の発現に関わっていることから、最終的に原因となる遺伝子を特定することはできないのではないか、とも考えられています。
ほかに考えられるアスペルガーの原因は?
前述のシナプス間の伝達異常の他に自閉症スペクトラム障害を引き起こす原因としては、以下のようなものが考えられます。
- 脳領域間の機能的連結低下
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- 脳内のネットワークの連結機能がうまく働かず、定型発達の人と比べて機能低下している
- アスペルガー症候群だけでなく、自閉症スペクトラム障害すべてに関わる原因と考えられる
- 社会的な活動をするための脳の部位に機能異常がある
- 人の脳には部位ごとに役割があり、その中に社会的な活動をするための部位もある
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- 扁桃体・紡錘状回・上側頭溝・前頭葉などに異常があったり、働きが弱かったりして、うまく人の表情や感情が理解できないのではないかと考えられる
- 扁桃体:人の表情を認識し、感情を読み取る部位
- 紡錘状回:人の頭を認識する部位
- 上側頭溝:人の目や口などの部位の動きを認識する
- 前頭葉:ミラーニューロンと呼ばれる神経が存在し、「共感」と関係している
- 小脳の異常
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- 平衡感覚や協調運動を行う小脳に異常があり、バランス感覚を保てない
- 小脳の異常は、感情や認知にも影響しているのではないかと報告される
- 実際に、自閉症スペクトラム障害で小脳に異常が見られた人もいる
- 脳内物質の異常
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- 自閉症スペクトラム障害では、脳内物質に異常があるという報告がある
- 一般的な人と比べてセロトニンや血中グルタミン酸の数値が高い、血中オキシトシンが低いなどの違いが見られたという研究報告も
このように、自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)の原因はシナプス間の神経伝達以外にもさまざまな要因が考えられています。そのため、現在ではどれが原因であるとはっきり特定することができていませんので、今後の研究が待たれます。
おわりに:アスペルガー症候群は、遺伝子と環境の両方が要因として考えられる
自閉症スペクトラム障害についての研究の中に、一卵性双生児の一致率は二卵性双生児の一致率よりも高いというものがあり、遺伝子が関係している可能性は高いと考えられています。一方で、一卵性双生児の一致率が100%でなかったことから、遺伝子で100%発現するわけではないとも言えます。
そのため、両親どちらもアスペルガー症候群であったとしても、子どもはそうでないこともありえるのです。今後の研究が待たれます。
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