二次障がいとは、ある障がいが存在することが原因で、さらに別の障がいを発症してしまったとき、その別の障がいを指す言葉です。
生まれつきの特性が定型発達の人と異なる発達障がいの人も、成長する中で生きづらさを感じることから精神面での二次障がいを発症しやすいことがわかっています。そこで、この記事では二次障がいとしてパニック障がいを発症した場合についてご紹介します。
発達障がいとパニック障がいは併発するの?
発達障がいの人は、定型発達の人とは違う特性を持っています。そのため、定型発達の人ができないことができる代わりに、定型発達の人ができることが本人の努力に関わらず、できないこともあります。すると、子供の頃は周囲の人や教師に、大人になってからは上司に叱責されたり、厳しく指導を受けたりするかもしれません。
しかし、発達障がいの人が不得意なこと、できないことの多くは本人の努力ではどうにもならないことなのです。
ですから、何度注意されても周りと同じようにできない、あるいは言われたことを直せないことで本人も気を病んでしまい、「自分は何をやってもできない」と思い込み、うつ病やパニック障がいなどを発症してしまうこともあります。これを二次障がいと言います。
二次障がいには、他にも社会不安障害・統合失調症・依存症などがあります。厚生労働省の調査によれば、自分が発達障がいであることに気づかないまま大人になる「隠れ発達障がい」の人は患者数全体の半数近くにものぼるとされていますが、こうした「隠れ発達障がい」の人が二次障がいとしてパニック障がいなどを併発した場合、発達障がいには本人も医師も気づかないままパニック障がいの治療だけを受けてしまい、根本的な解決にならない可能性もあります。
まず、パニック障がいやうつ病などの症状が出ている場合、二次障がいかどうかに関わらず病院を受診し、薬物療法を中心とした治療を行います。とくに、発達障がいの二次障がいとしての精神疾患の場合、少量の薬物でも十分な効果を得られることが多いです。本人が気づいていない場合もありますので、周囲が気づいた場合は受診を促してあげると良いでしょう。
もし、精神疾患が二次障がいではない場合、正しい治療を行えば症状が改善していきます。しかし、なかなかパニック障がいの症状が改善しない場合は、根本的な原因として発達障がいが隠れている可能性があります。
発達障がいの症状にも心当たりがあるようなら、ぜひ一度発達障がいの専門医の診察を受けてみましょう。発達障がいが発見されれば、根本的な原因の改善につながりますので、パニック障がいの症状を改善するのにも役立ちます。
パニック障がいの症状は?
パニック障がいの典型的な症状は、いわゆる「パニック発作」と呼ばれるものです。突然、理由のない不安が押し寄せ、激しい動悸・めまい・呼吸困難などの症状が現れます。人によっては手足の震え・しびれ・吐き気・胸痛・喉のつかえ・知覚異常などの激しい苦痛を伴う症状が現れることもあり、死の恐怖を感じる人も少なくありません。
それぞれの症状を詳しく見ていくと、以下のようになります。
- 動悸・息の乱れ・胸部の痛み
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- 単なる心臓のドキドキではなく、多くは心臓が破裂するような・わしづかみにされるようなといった激しさを伴う
- 呼吸が速くなったり荒くなったりするため、息をするのが困難になることも
- そのため、窒息するのではないか、死んでしまうのではないかという恐怖に襲われる
- 胸の一部にチクッとした痛みを感じたり、ムカムカとした不快感を覚えたりすることも
- 手足の震え・めまい・ふらつき
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- 手足、あるいは全身の筋肉が強くこわばり、自分の意思とは関係なく震える
- めまいも、目が回るというよりも、フラフラするような感じがする
- 「頭から血が引いていく」「頭を強く後ろに引っ張られる」など、人によって感じ方はさまざま
- 発汗・冷や汗
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- 暑さではなく、不安感や恐怖感が原因で発汗する
- 冷や汗をかくことでさらに不吉な感覚が生まれ、不安と恐怖を増長させる
- 口の渇き・吐き気・腹部の不快感
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- 喉がカラカラになる。口の中が渇いて息苦しさを覚えることも
- 胃を掴まれたような、またはお腹の中をぐちゃぐちゃにされたような不快感
- 強い吐き気を覚える人も多く、中には実際に嘔吐してしまう人もいる
- 発狂するのではないかという恐怖感
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- 異常な不安感と恐怖感により、自分はこのまま頭がおかしくなってしまうのではないか、人前で奇行に走るのではないかと強く恐れるようになる
- パニック発作で死ぬことはないが、本人の感じる恐怖感は心筋梗塞にも近いとされる
そして、このような症状を何度も繰り返すうちに、発作が起きていないときであっても、ふとした折に再発するのではないかという不安感や恐怖感に常にとらわれ続けてしまいます。こうした、起こっていないのに症状を予期して不安感や恐怖感に陥ってしまうことは「予期不安」と呼ばれ、パニック障がいの症状の1つです。
また、予期不安とともに「広場恐怖」という症状も現れます。広場というのは文字通りの広い場所ということではなく、「逃げ場がない場所」や「助けを求められない場所」という意味です。予期不安によって、発作を起こした場所や状況を恐れ、避ける(回避行動)ようになり、やがては自分が恐れる場所に近づいただけで動悸が起こったり、吐き気や呼吸困難に襲われたりするようになります。
広場恐怖症は、パニック障がいの人すべてに必ず起こる症状というわけではありませんが、約80%以上の人に現れるとされ、割合としては非常に多い症状です。
パニック障がいは治療できる?
パニック障がいの治療のためには、まず正しく、適切な診断が必要です。正しい診断が下されたのち、大きく分けて2つの治療法を行います。「薬物療法」と「認知行動療法」の2つで、どちらかを単独で行うこともできますが、一般的には併用した方がより高い効果を得られるとされています。
基本的な流れとしては、まず薬によって発作などの症状を軽く抑え、その後、認知行動療法を行います。そこで、薬物療法から順に見ていきましょう。
パニック障がいの薬物療法って?
まず、発症の初期段階や急性症状の際には、抗うつ剤や抗不安薬といった薬物療法を使用します。パニック発作の主な症状は薬物療法によって抑えられ、発作がなくなれば予期不安もなくなりますので、生活に支障をきたしにくくなります。薬物治療は、以下のようなステップを踏んで進めていきます。
- まず、パニック発作を抑えることを最大の目的として薬物療法を行う
- 様子を見ながら、本人に合った服薬量を探る
- 症状や薬の効き目を注意深く観察しながら、数ヶ月〜数年間をかけて薬の量を調整していく
パニック障がいの薬物療法に使われるのは、主にパニック発作を抑える「抗不安薬」と、パニック発作に対する不安や心配を抑える「抗うつ薬」の2種類です。飲むだけなので治療として始めやすく、効き目に即効性があり、発作を予防・コントロールすることで不安感や抑うつ感を軽減できる一方、薬の種類によっては吐き気や下痢などの副作用が生じる可能性もあります。
また、服薬を中止すると再発しやすいことや、薬の種類によっては妊娠や授乳に影響することも考えられるといったデメリットもあります。さらに、パニック障がいの治療が年単位での長期にわたる場合、薬を飲み続けることへの不安や抵抗感を感じる人もいます。パニック障がいの治療薬は抗不安薬や抗うつ薬のため、脳神経に作用することから、より不安感を感じやすいようです。
しかし、これらの薬剤は自己判断で中止すると、離脱症状が出現したり再発しやすくなったりと、余計に症状が悪化するリスクの方が大きいのです。また、症状が良くならないからと自己判断で増薬するのも絶対にいけません。副作用が強く出たり、薬に依存してしまったりする可能性もあるのです。
薬物療法を行う際は、医師の指示をよく守り、自己判断で中止したり増減したりしないことが大切です。何か気になることや、心配なことがあれば必ず医師に相談しながら薬の量を調整していきましょう。
パニック障がいの認知行動療法って?
薬物療法はパニック発作の症状を手っ取り早く抑えるのには効果的ですが、根本的な心の動きを解決してくれるものではありません。そこで、薬物療法が一段落したら、心理教育(カウンセリング)・自立訓練療法・曝露療法などの認知行動療法を行っていきます。それぞれ、以下のような特徴があります。
- 心理教育(カウンセリング)
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- 病気への理解を深めるとともに、生活環境を洗い出す
- いわゆる「心の土台」を作るために行われ、この上で他の訓練に進むのがより効果的とされる
- 自立訓練法
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- ドイツの精神科医によって考案されたリラックス法で、自分でリラックス状態を作れることを目指す
- 緊張を和らげて精神を安定させ、抑うつ状態や不安感の解消に役立つ
- 暴露療法
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- パニック発作が起こりやすい状況に対し、少しずつ慣れていく方法
- 最初は怖い場所に近づく、次に少しだけ入ってみる、というように段階的にその状況に慣れていく
- 行うのは患者さん自身だが、練習の課題は医師と相談しながら作る
カウンセリングや自立訓練法によって心の土台を作り、身体をリラックスさせられるようになったら、最終的にはパニック障がいの発作によって避けていた場所や状況に少しずつ慣れていけるよう、「(段階的)暴露療法」という治療法を行います。
例えば、人混みを恐れる人であれば、最初はごく短時間での同伴者と一緒の外出から始め、慣れてきたらだんだんと時間を長くしていき、次には一人で外出できるようにする、など、あえてパニック発作が起こりやすい状況に自ら近づいていき、身体の症状に慣れるとともに、「症状が起こっても死ぬことはない」と安心できるようになることが最終的な目標です。
精神療法の場合、薬物治療とは異なり、副作用や依存性はありません。また、治療・再発防止・社会復帰のいずれにも高い効果が認められています。中には、一度も薬物療法を行わずに認知行動療法のみで完治できる患者さんもいます。とはいえ、症状の程度はさまざまですし、治療を焦るあまり、暴露療法を自己判断でどんどん進めすぎると逆に症状が悪化するリスクもあります。これらの治療は、必ず医師と相談しながら行いましょう。
パニック障がいとうまくつきあっていくためには?
パニック障がいは、一度治ってもまた強いストレスにさらされ続けると、再発する可能性があります。ストレスはパニック障がいの引き金となるだけでなく、症状を悪化させたり、発作を引き起こしたりすることもわかっています。そこで、まずはストレスを溜め込まないよう、自分なりのストレス解消法を見つけ、発症する前に日頃から予防しておくことが大切です。
また、それでももし発作が起こってしまったときは、以下のような対処法を取ると良いでしょう。
- 楽な姿勢をとる
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- 発作が起きたら床に腹ばいになり、ひじを曲げた腕の中に頭を入れる
- 寝転がれない場合、椅子に腰かけて頭が膝の間に入るくらいまで前かがみに頭を下げる
- いずれも自然と腹式呼吸になるため、過呼吸を抑えて自律神経をしずめることができる
- 息を吸うのではなく、息を吐くことを意識する
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- 過呼吸では身体の中の二酸化炭素が増えすぎて、息が苦しくなるため必要以上に息を吸おうとしてしまい、ますます苦しくなる
- 息を吸う:息を吐く=1:2くらいになるよう心がけ、息を吐くときはなるべく長い息を吐く
- 1回の呼吸に10秒くらい時間をかけるのを目安とする
- 神経が安らぐツボを押す
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- 手のひらを上にした状態で手首を曲げてできる横ジワの小指の真下のあたり、小さな骨にあたるくぼみ「神門」というツボ
- 神経を休め、心を落ち着かせる効果がある
- 親指の腹をツボに当て、手首の中心に向かって3秒間押すのを左右、何回か行う
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こうした対処法を覚えておくことは、もし発作が起こってもすぐに対処できる、怖がらなくてもいいんだ、という安心感につながります。
この安心感こそが、パニック発作を起こさないための最も有効な予防法と言っても過言ではありません。ぜひ、自分が安心できる対処法、ストレス解消法をたくさん見つけていきましょう。
おわりに:パニック障がいではパニック発作のほか、予期不安や広場恐怖が出ることも
二次障がいで現れるパニック障がいも、突如とした理由のない不安とともに、激しい動悸・めまい・呼吸困難といった症状が現れ、死の恐怖を感じることがあります。とはいえ、パニック障がいの発作で死に至ることは決してありません。
パニック障がいの正しい治療を行っていても改善が見られない場合、背景に発達障がいがある可能性があります。思い当たる節があれば、一度発達障がいの専門医の診察を受けてみると良いでしょう。
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