自閉症スペクトラム(ASD)、注意欠陥・多動性障がい(ADHD)など、生まれつきの脳機能の障がいによって、特性のある人を「発達障がい」と呼びます。
発達障がいの人が何らかの理由で退職したとき、失業保険を長めにもらえる可能性があります。そこで、失業保険の受給条件やもらえる期間、もらうための手順についてご紹介します。
失業保険をもらえる「失業の状態」とは?
失業保険とは、退職した後、次の就職が決まるまでの間に受けられる手当のことです。厳密には「求職者給付」と言い、退職日から過去2年間の間に12ヶ月以上雇用保険に加入していることが原則です。ただし、特定受給資格者(離職理由が倒産・解雇・過重労働・セクハラなど会社側に原因がある)の場合は、退職日から過去1年間の間に6ヶ月以上で構いません。
さらに、失業保険をもらえるのは、以下のように「失業の状態」にあるという人だけです。
- 就職する意思があり、いつでも就職できる状態である人
- 積極的に仕事探しをしているにも関わらず、現在は仕事をしていない人
「就職」は正社員としての雇用だけではなく、アルバイトやパートも含まれます。在宅ワークやボランティア活動なども、場合によっては就職とみなされる場合がありますので、これらの活動を行う場合は事前にハローワークとよく相談しましょう。
また、失業保険はあくまでも「求職者」に対する給付ですから、既に再就職の意思がない人は給付の対象となりません。例えば、以下のような人です。
- 結婚して家事に専念するという人
- 家事手伝いや農業など、家業に専念するという人
- 病気やケガなど、何らかの理由ですぐに働けない人
- 退職後、学業に専念する人
- 自営業を営む(営んでいる)人
病気やケガで働けない(労災保険の休業給付や健康保険の傷病手当金を受けている人も含む)、妊娠や出産・育児、介護や看護、正当かつ公的な理由のある長期海外渡航(配偶者の海外赴任に同行する、公的な海外技術指導など)といった理由で1ヶ月以上離職しているが、いずれ再就職の意思があるという人は、診断書など理由がわかるものを添え、理由が発生してから1ヶ月後以降にハローワークで「受給期間延長手続き」を行うと、給付を待ってもらう(有効期限を延ばしてもらう)ことができます。この手続きは、代理人や郵送でも構いません。
また、失業保険でもらえる金額は「退職日から過去6ヶ月の給与の合計を180で割った金額の45〜80%」となり、60%が目安とされています。1日あたりもらえる金額を「基本手当」と言い、年齢によって上限額が異なります。
発達障がいの人が失業保険を貰える期間はどのくらい?
発達障がいの人は、種別に関わらず障害者手帳(療育手帳も障害者手帳の一種)を持っている場合、「就職困難者」という扱いになります。一般雇用の場合、失業保険を貰える期間は年齢と勤務していた年月によって変化しますが、最も短い給付期間は90日です。しかし、「就職困難者」の場合、給付期間が延長されるのです。具体的には、年齢と勤続年数によって以下のように変化します。
- 勤続年数が1年未満の場合(※会社都合の退職のみ)
-
- 年齢に関わらず、150日間
- 勤続年数が1年以上の場合
-
- 45歳未満:300日間
- 45歳以上65歳未満:360日間
ただし、いずれの場合も「退職日から過去1年間の間に6ヶ月以上雇用保険に加入していること」が条件となります。また、自己都合で退職した場合は7日間の待機期間と、3ヶ月の給付制限期間が設けられ、失業保険の給付を受けられるのはその後です。この給付制限が免除されるのは、会社都合による退職をした「特定受給資格者」と、特殊な理由によって退職した「特定理由離職者」のみです。該当するかどうかは、最寄りのハローワークに問い合わせてみましょう。
また、障害者手帳を持っていると「就職困難者」として扱われるとお話しましたが、これはあくまで便宜上の呼び名であり、実際に就職で一般雇用の人に対して不利な扱いを受けるということではありません。そのため、障がい者であることを非開示にして一般雇用として働いていた人であっても、次の就職もまた一般雇用として働く場合も、障害者手帳を持っていれば失業保険の給付期間延長を受けられます。
発達障がいを持つ人が対象となる障害者手帳は、療育手帳または精神障害者保健福祉手帳のいずれかです。精神障害者保健福祉手帳の場合、申請には医師の診断書が必要であり、さらに申請から交付までは最長で2ヶ月程度かかることもあります。雇用保険を受給する手続きの際に手帳が交付されておらず、給付期間の延長が受けられなかったということのないよう、必要な場合はできるだけ早めに申請しておきましょう。
就労継続支援に通っている人でも失業保険をもらえる?
雇用保険の加入対象は主に企業で働く人ですが、その基準は「雇用契約を結び、週に20時間以上勤務していること」です。「就労継続支援A型事業所」を利用している人の場合、福祉サービスではあるものの、事業所と利用者が雇用契約を結んで勤務する雇用型就労ですから、勤務時間を満たせば雇用主が雇用保険に加入しなくてはなりません。
ですから、A型事業所を利用する人も、一般企業と同じように6ヶ月以上勤務すれば失業保険の受給対象となります。ただし、就労継続支援B型事業所の場合は、雇用契約を結んでの勤務とならないため、残念ながらそもそも雇用保険の加入対象となりません。週20時間以上継続して勤務できる自信があれば、A型事業所で雇用契約を結んで働いた方が良いでしょう。
失業保険をもらうに準備する書類って?
失業保険をもらうためには、以下の書類が必要です。
- 離職票1、離職票2
- マイナンバーカードや年金手帳など、個人番号が確認できるもの
- 本人の印鑑
- 最近の写真(正面上半身で、縦3cm×横2.5cm)
- 本人名義の預金通帳
- 障がいを証明する診断書など
離職票は、退職前に会社や事業所に離職票がほしいと伝えてもらいます。もし、会社が離職票を発行してくれない場合、離職理由が異なっているなどの場合はハローワークに相談しましょう。また、給付期間を延長してもらう場合は、発達障がいを証明する診断書(または、主治医の意見書)が必要となりますので、できれば離職することが決まった時点で主治医に書いてもらっておきましょう。
上記の書類が揃ったら、「退職日の翌日から1年間」の間に、ハローワークで失業保険の受給手続きを行います。受給の流れは「ハローワークでの手続き」「説明会への参加」「失業認定日の申告」「受給」の4ステップです。それぞれの手順について、詳しく見ていきましょう。
ハローワークで手続きを行う
窓口で求職申込書などをもらい、就職に関して希望する条件と今まで経験した仕事のことなどを書いて、持参した書類と一緒に提出し、手続きをします。このとき、障害者手帳を持ってきた人は一緒に提出しましょう。もし、障害者登録がまだなら、障害者窓口で登録を行います。これをきっかけに自己分析の一環として障害者職業センターで評価を受けたい、という場合は窓口で申し出ると、予約をしてもらえます。
書類を書類袋に入れてもらい、続いて失業手当の手続きをします。病気やケガなど正当な理由のある退職をした場合は「特定理由離職者」、倒産・解雇・過重労働・セクハラなど会社側に原因があって退職した場合は「特定受給資格者」となりますので、その理由も書いて一緒に提出します。特定理由離職者の文面は、ハローワークの職員に一緒に考えてもらうこともできます。
とくに問題がなければ書類が受理され、「雇用保険受給資格者のしおり」を渡されます。「雇用保険受給説明会」まで7日間の待機期間があり、待機期間中は1日4時間以上の労働が禁止されています。この期間はゆっくり身体を休め、今後のことを考える時間としましょう。
説明会に参加する
1週間〜3週間後に「雇用保険受給説明会」があります。約2時間程度の説明会で、失業認定に必要な資料をもらい、終わったら障害者窓口に行って職員に説明会に行ったことを伝えます。また、この説明会に参加することも求職活動としてカウントされますので、次の「申告」の際に求職活動の実績として書くことができます。
失業認定日に申告をする
説明会から2週間ほど後に「失業認定日」があり、この日にハローワークに行って申告をします。持ち物は「雇用保険受給資格者証・失業認定申告書・印鑑」で、「失業認定申告書」では、認定日までに働いた日があれば、その日付と時間を4時間以上または4時間未満か申告します。このとき、週の労働時間の合計が20時間を超えないよう注意しましょう。
また、内職や手伝いで収入があった場合は、失業保険の給付が減額または支給されない場合もありますが、これを正確に申告しないと不正受給となってしまいますので、収入があった場合は必ずきちんと申告しましょう。
そして、「求職活動の実績」も1回以上必要です。「雇用保険受給説明会」のほか、以下のようなことが求職活動の実績となります。
- 求人検索をし、窓口で相談する
- 求人に応募する
- 就職支援セミナー、職業センターの準備支援などへの参加
失業保険の受給
失業認定日の翌日から5日前後で、指定した銀行口座に失業保険が振り込まれます。ただし、間に祝日を挟むと遅れることもありますので、気をつけましょう。また、「特定理由離職者」「特定受給資格者」に当てはまる人は、3ヶ月の給付制限期間がありませんので、早く失業保険をもらい始めることができます。
これらに該当する人は、国民健康保険も軽減してもらえます。この手続きはハローワークでは行えませんので、役所に相談してみましょう。
おわりに:発達障がいで障害者手帳を持っていれば、失業保険を長くもらえる
発達障がいの人は、療育手帳または精神障害者保健福祉手帳の障害者手帳を持てる可能性があります。これらの手帳を持っていれば、失業保険を受給するための雇用保険の加入期間を短縮でき、失業保険の給付期間は延長できます。
また、「特定理由離職者」や「特定受給資格者」に該当する場合は、3ヶ月の給付制限期間が免除されたり、健康保険を軽減してもらえたりします。該当するかどうかは、ハローワークに問い合わせてみましょう。
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